表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自死

作者: 津川サブロー

 二千○○年。世界は滅びようとしていた。

 数十年前に始まった第三次世界大戦は、泥沼の戦争となり人類の数は徐々に減少していった。それに重なって相次ぐ自然災害によりほとんどの政府機能は崩壊してしまった。人類はここにきて自分で食料を探さないと生きていけない自給自足の生活を強いられることになってしまったのである。


 僕はそんな世界のなかで生きているただの人である。今日も食料が残ってないかと、ある民家を尋ねた。住民はとっくの昔に死んでいないのか、明らかにぼろぼろになっている。この世の中においては何も不思議なことではない。しかし、ところどころ元は豪邸だったのだろうなと思わせる造りをしているように思えた。食料が期待できそうだ。

 しかし、事はそう上手くはいかない。

「くそ、ここもほとんど食料ないのかよ」

 そう僕はぼやきながら部屋中を漁っていた。すると、一冊のノートがひらりと僕の前に落ちてきた。普段ならそんなもの目にくれることはない。しかし、僕はそのノートの表題にとてつもない興味を持ってしまったのだ。


自死(じし)


 そうこのノートの表紙には記されていた。多分昔この家に住んでいた住人がこれを書いたのであろう。興味を持つとやはり読みたくなってしまう。僕はぺらりとそのノートのページをめくった。


 ―――――――――――――――――――――――



 明日、僕は自死する。僕に生きている価値がない以上死ぬしか選択肢はないのだ。

 だが、ここまでに至る経緯を書きたくなってしまったので、こうして今までの出来事、自死に至るまでの経緯を書き記している。いわゆる備忘録みたいなものなのだろう。


 四月。僕は四葉高校に進学を果たした。住んでいる町から片道二時間はかかる学校へ進学したのだ。中学の奴とはおさらばした。色々あったがもうあいつらは二度とみたくないものだ。そんなことはどうでもいい。僕はここで新しい人生を見つけるのだ、そう思っていた。

 最初の滑りだしは順調だった。僕は、自分を隠して生きる術を見つけたのだ。馬鹿な真似をすれば、案外人というのはすぐに寄ってくるものであった。

 そうしているうちに、僕は仲間を得た。一人は、田沼誠一。嘘をつかない名前に恥じないような性格の持ち主だ。運動部に入っているらしく僕にはないきらきらした感じがあるように感じた。信頼できそう。もう一人は、伊藤あお。誠一の幼馴染らしくかわいらしいくりりとした顔が特徴。優しさで人を包み込むタイプのいわゆる癒し系だろうか。

 僕は、柄でもないおバカキャラを演じていた。


 最初、彼らの出会いは係だった。偶然にも三人は同じ係となったのだ。

 その集まりのときに偶然にも誠一が僕の好きなアニメが好きなのを知って意気投合したのだ。きらきら高校生という感じの誠一だがアニメ好きなのは意外だ。あおはそれをほほえましくみていた。とても可愛らしいなと思っていた。とっつきやすくて、少し天然な彼女に。


 それから彼らと一緒に行動するようになった。

 ある日は、数学ムズイねといいながら図書館で勉強したり。ある日は、このスタバのフラッペチーノおいしいのという彼女に連れられて、笑いあったりした。

 僕はこの何気ない日常が好きだった。

 だが、それは要所要所の僕の「演技」の上に成り立っていた。僕は「演技」のためなら努力を惜しまなかった。この頃から、売れない芸人のネタをよく見るようになった。それを覚えて事あるごとに二人に披露した。彼らは、それを僕のネタだと疑うことはなかった。

「ははははは、やっぱり○○君は天才だね」

 そう二人は言った。


 こんなの馬鹿げている。そう気づいたのはいつだろう。辞めよう。本当の自分を見せようって何度も思った。

 でも、もう後戻りできなかったのだ。後戻りするにはあまりにも時間とキャラがたちすぎたのだ。



 転機が訪れる。二学期になって体育祭があった。その体育祭でリレーをすることになった。

 そのメンバーに僕ら三人ともやることになったのだ。誠一は足が速かったからなるのは確定みたいなものであったが、どうやらメンバーが足りなかったらしい。単純に上から足が速い人を選べばいいと思ったが、どうやらこれは彼の意志で決まったようである。いいだろう。僕は足が速い方ではないが、一肌脱ごうではないか。


 決まってからというものの僕らは真面目に練習し始めた。最初はやはり僕とあおのタイムがあまり速くなかった。でも、彼はこう激励した。

「もっと、いけると思う。だからもっと練習しよう。頑張ろう」

 上達が速かったのは彼女の方だった。彼女はめきめきと頭角を現したのか、どんどん速くなっていった。僕もそんな彼女を見て負けじと頑張った。

 すると、二週間も経てばタイムは一秒縮まっていた。

「すごいな! 一秒も縮めるなんて。やっぱ、○○は天才だよ」

 そう誠一は言った。

 中でも、印象に残ったのは彼女だった。

 僕が木陰で休憩をとっていると彼女がすっと現れた。

「お疲れ」

 そう言うとスポドリを渡してきた。僕はそれをありがたく受け取って飲む。

「すごいね。だってたったの二週間で一秒もタイム縮めたんだよ」

 そう彼女が言ってきたので僕はこう謙遜した。

「いや、まだまだだよ。僕なんかより、あおの方がすごいじゃん。今なら、クラスの女子なら一二を争うぐらいにはタイム早くなったんじゃないの?」

「いやいや、そんなことないよ。まだまだ、私は……」

 今更ながらに気づいたが、汗を拭きながらスポドリを飲んでいる彼女はとても艶めかしく美しかった。

「努力できる人、私好きだな」

 何の脈絡もなく彼女はそう言った。

「どうしたの」

 そう僕が聞くと彼女はこう返した。

「いや……、ただの独り言だよ」

 何か引っかかる。続けて彼女はこう言った。

「これもね、独り言だけど君は本当にすごい人だし尊敬できると思ってるよ。私はそう()()()()から。だから、だから……」

 そう言うと彼女は黙ってどこかへ行ってしまった。けどこのとき僕は「どういうこと」と呼び止め聞き返しはしなかった。



 体育祭本番がやってきた。これほどまでに体育祭日和はないのではないかと思うぐらいの快晴。

 プログラムはつつがなく進行をしていよいよ午後の目玉競技、男女混合リレーのときがやっこようとしていた。これが僕らがでる競技である。

「○○―」

 そう呼んできたのはあおだった。

「なんだい」

 そう彼女に呼ばれた僕は呟いた。

「もうすぐ、リレーじゃん。お互い頑張ろうね。はい、スポドリ」

 そう言って彼女は笑顔でスポドリを渡してきた。

「うん、そうだね。スポドリありがとー」

 そう僕が言ってそれを飲むと何故だか彼女は少し悲しみの混ざった笑顔をしていた。そんな気がした。気のせいだろうか……。


「ただいまより、プログラム○○番。男女混合リレーを行います。選手の皆さんは入場してください」

 という小気味のいいアナウンスが聞こえてきた。

 周りの観客席からはイケメンに反応する黄色い女子の声や、普通に知り合いを応援する男子の声などさまざまな声が聞こえた。

 中には、

「誠一頑張れーー」

 とか

「あおちゃん頑張ってーー」

 という声も聞こえた。


 僕はなんと四番目だった。最終走の誠一につなぐための大切なポジション。三走はあおだった。


「位置について」

 という声がするとさすがに緊張してきた。

「用意、ドン」

 パンと空鉄砲の音が鳴ってリレーはスタートした。

 うちのクラスはとてもいい位置についていた。トップ集団の一員として激しい首位争いを繰り広げている。ここまでの大健闘は予想していなかったのか自分のクラスのボルテージは一気に上がっていった。

 あおにバトンが渡った。あおはデッドヒートを繰り広げていた他クラスをグングン引き離していく。さらにクラスは盛り上がる。他クラスも盛り上がっているのか、「おおっ」という声があちこちから聞こえているのがわかった。

 いよいよ、僕の番だ。僕自身もこの展開は予想してなかったからさらに緊張してきた。

「はい!!!」

 彼女はそう言ってバトンを渡してきた。僕はしっかりとそれを受け取って走り始めた。


 いける。いける。今日の僕はなんだか調子がいい。今までのなかで最速じゃないか。これは。このまま、誠一に渡すぞ。


 そう思った矢先だった。


 突如眠気を感じた。


「………っ!!!!」

 やばい、頭がくらくらする。寝る。寝てしまう。そう思ったときには僕はこけていた。盛大に。

 すぐに立ち上がろうとした。けれど、体が言うことを聞かない。驚くぐらい体がだるい。思うように動いてくれないからだに僕は心の中で「なんでだよ!!」と叱咤した。それでも、言うことを聞いてくれなかった。

 なんとか立ち上がったとき、そのときには全組が僕の横を通過した後であった。見なくともクラスの空気が曇っているのを感じていた。


 それからというもの、僕のあだ名は「戦犯」となった。このころからクラスメートに明らかに無視され始めていた。それまで盛り上がった分、それを盛り下げた僕の行為の代償は普通よりも大きくなってしまったようだ。

 しかし、おかしいのである。なぜあのとき突如眠くなったのか。前日に夜更かしをしていたわけではなかったのだが、なぜだろう。だが、そんなことを聞いてくれる人はもうほとんどいなかった。


 しかし、一人だけ僕を励ましてくれる人がいた。あおである。

「大丈夫だよ。気にしちゃだめだよ」

 そう彼女は言った。

 純粋にうれしかった。味方はもう彼女しかいないと言っても過言ではなかった。このときになってようやく「彼女のことが好きだ」と自覚するようになった。

 彼女さえいれば、どんなにクラスで虐げられようとも耐えれると思った。彼女の笑顔が救いだった。自分の中での彼女の存在の大きさにこのとき初めて気がついたのだ。


 だが、このときになってようやくわかるということ自体がそもそも阿呆(あほう)であった。僕は道化師(ピエロ)だったに違いない。


 思いは募るばかりであった。遂にいっぱいになった僕はある日彼女を人気のない体育館の裏に呼び出した。告白しよう、そう思った。

「どうしたの? 急にこんなところ呼び出して」

 そう彼女は言う。そのきょとんとした顔があまりにも可愛くて、僕は気持ちが昂るのを感じた。

「あの、今日はね……、大事な話があって呼んだんだ」

 彼女はきょとんとした顔で僕を見つめている。心臓がどうにかなりそうだ。

「あのね……。僕、君のことが好きなんだ」

 言った。言ってしまった。こうなれたのも、僕が一生懸命高校に入ってからキャラを作ったからだ。「演技」が上手くいったからだ。そう思った。

 だが、彼女の顔は困った笑顔をしていた。そして、こう返した。

「私もね、君のこと()()()()()よ」

 そう言った。だったって……。そう考えていると彼女はこう続けた。

「でも、もう遅いよ。遅いよ。…………。あと、一か月早かったら……」

 そう彼女が言い淀んだとき、すっと入ってくる人影があった。


 誠一だった。


「よう、○○。あお。こんなところで何してるんだ?」

 そう彼は聞いてきた。見たことのない不気味な笑みを浮かべながら。そういえば、彼とは最近あまり話をしてなかった気がする。

「なあ、○○。まさかだけど、お前あおに告白なんかしてないよなあ?」

 鋭い目をして彼は言った。こんな誠一見たことがなかった。誠一はきらきらした運動系爽やか人間で、嘘をつかないそういう人物だったはず……。

「なあ、人の彼女に告白とか趣味悪いんじゃない?」

 そう彼は僕につかつかと近づいて聞いてきた。明らかに敵意のこもった声と目だった。しかし初耳だ。そんなこと聞いたことない。あおの方に本当かという目線を送ると彼女は目を逸らした。

「い、いつから……?」

 そう僕は聞いた。

「最初からだけど?」

 そう彼が聞いたときああと僕は悟った。そっか、この二人()()()だったな。

「てか、ずっと思ってたけどお前うざいんよな」

 彼はどこから取り出したかたばこを吸いながらそう言った。

「自分のこと隠して何かを演じてクラスに溶け込もうとしてただろ? うざいんだよ。そういうところ。所詮、ただの陰キャのくせにさあ。何でしゃばってんの? それに、何勝手にあおに恋してんの。馬鹿じゃないの? 聞いてあきれるわ」

 人は見かけによらず。その格言が僕の脳裏に浮かんできた。

「うざかったんだけど、まあすぐ無視とかするのは、さ。面白くないじゃん。だから、体育祭で盛大にやらかしてもらおうと思ったわけ。いやー。思ったように睡眠薬が聞いてくれてよかったぜ」

 睡眠薬だと……? まさか……。

「いつ、そんなもの盛ったんだ?」

 僕はそう聞くと彼はこう返した。

「あ? お前覚えてないのか。あおからスポドリもらってただろ。あんなかに入れさせてもらったよ」

 僕は非常に驚いた。彼女はあの時にこにこ笑顔で、「頑張れ」と言いながらスポドリを渡してきたではないか。そういえば、笑顔ひきつってたけ。あれは多分僕の気のせいではなかったのだな。でも何故だ。そんなにもこの男が恋しいのか。その答えは彼が勝手に喋ってくれた。

「あおの奴よー。いきなり別れたい、とか言い出してよー。おかしいなと思ったから問いただしたわけ。そしたら、お前が好きになったとか言い出すからよー。何馬鹿なこといってんだと思ってさー。お仕置きしてやったよ。無理やりビデオ撮らせてよー。いやー、あれは爽快だったわ」

「やめろ!!!!」

 それ以上聞きたくない。僕はあおにこう聞いた。

「今言ってたこと事実? ねえ、あお! あお!!」

「気安く俺の女に話しかけんなよ!!」

 そう言うと彼は僕の鳩尾にパンチをした。激痛が走り、思わず僕は悶絶。地面に転がる。さらに、吸い殻を僕の頬に押し付けてきた。熱い熱い。いやなタバコの匂いが至近距離でする。

「だから……。あと一月早かったら……」

 そうあおは小さな声で言った。もう、僕の目は見てくれない。

 虐げるのに満足したのか彼はこう言った。

「そういうわけでな、もう今からお前の居場所ないから。じゃあな」

 ははははという笑い声を立てながら誠一はあおと一緒にその場を去っていった。

 去り際に彼はこう言った。

「実はな、俺は中学のときのお前知ってたんだぜ。それもあって、今のお前が気に入らなかったんだ」


 まただ。この状況になったのは。中学以来か。しかし、なんで誠一は中学のときの僕を知っているのだ。その疑問だけが残った。


 そのとき「ぴるるぴるる」とけたましい音が鳴った。非通知電話。いつもならそんな怪しい電話出ることはないのだが、もう心がおかしくなった僕は救いを求めるようにその電話にでた。


「よう、久しぶりだな」


 残酷なことにその声はこの世で一番聞きたくない声だった。



 その非通知電話に呼び出されて僕は高校を途中で抜け出して、地元へ帰った。帰りたくなった。しかし、僕には拒否権はなかった。

 着いたのは、思い出したくもない中学近くの公園だった。

 着けば、よほどお暇な人間(ヒト)たちなのだろう。真昼間(まっぴるま)というのに、三人も人間(ヒト)がいた。

 リーダーぽい男がこう言った。

「よう、久しぶりだな。元気にしてたか、○○」

 何か企んでいるとしか思えない笑みを浮かべながらそいつは言った。そいつはべらべらと続ける。

「まあ、元気ではないよなあ? なんてたって好きな人に振られたんだからなあ。ご愁傷様」

 言い方がいちいち腹がたって仕方がない。しかし、なぜこいつらは振られたということを知っているんだ?

「なあ、なんでお前らがそのこと知ってるんだよ。教えろよ」

 そう言うとリーダー男は煩わしい顔をした。

「あ? お前ごときの分際が命令してくんなよ!!」

 そう言うと部下どもが僕のことを殴ってきた。一対二だ。勝ち目なんてあるはずはない。

 すぐに、僕は汚い地面に転がってしまった。砂が服全面に付く。

「ははは、やっぱこいついじめるのスカッとするなあ」

 リーダー男は機嫌よくそう言った。

「気分がいいから教えてやろう。田沼誠一いただろ? あいつ、俺のいとこなんだ」

「いとこ」という言葉を聞いて僕は察してしまった。ああそういうことだったのか。リーダー男は僕が察した内容をご丁寧にも喋ってきた。

「いとこと俺は仲良しでな、よく連絡とりあっているんだがな、最近こいつうざいんだよと言ってきたから、誰か聞いたらこれが驚くことにお前だったとはな。いや、最初は同性同名の人間かと思っていたのだが写真みせてくれて確信したな。お前ってな。いやー、そこからは俺が命令していとこに色々やらせたんだ。体育祭の件もあいつは自分の手柄みてーな話をしたのかもしれないが、実際は俺が思いついたんだぜ。俺、天才と思わないか? あと、俺もあいつに色々ばらしてやったよ。お前が中学のときに何をしていたのか。まさか、高校になっても俺の()()()になってくれるなんて思いにもよらなかったから爽快だったぜ。あ、あと。誰だ。そうそう。あおとかというあいつの彼女? ああ、あいつ馬鹿だよな。お前のこと、中学しでかしたこと伝えても、私は信じるとか言ってよ。寒い寒い。だから、やってやったよ。いやー、あんなモブそうなやつがあんなにエロいとは。誠一もいいもの持ってるなって……」

「それ以上はやめろ!!!!」

 もう聞きたくなかった。あおのそういう姿というのは想像したくなかった。

「あ? だから、お前が命令してくんなよ。クソが」

 と言って、彼は誠一がそうしたように僕の鳩尾を殴った。悶絶する僕に追い打ちをかけるようにさらに殴る。殴る。殴る。僕はもうボロボロだった。

「あー、ストレス発散しねーな。そうだ、おい。こいつのズボン脱がせようぜ」

 でた。彼らの常套手段だ。何回公共の場で脱がされたことか。僕は必死に抵抗する。

 しかし、彼らには通用するわけなかった。通用していたら何回も脱がされることなどない。

 抵抗虚しく下半身は丸出しになってしまった。もう、だめだ。何人かがこっちを見ている。しかし、だれも少し見てはぷいっとそっぽを向くだけ。世の中はめんどくさいことには関わりたくないのだ。

「あっはっはっはっはっはっは!!!!」

 彼らの笑い声がこの世のものには僕には聞こえなかった。

「はーっ、楽しかった。()()もよろしくな、○○」

 そう言って彼らは去った。


 僕はもう壊れていた。



 きっかけは、ささいだった。彼らにとって僕があまり気に食わないとかその程度の理由だろう。そのときから僕に対するいじめは始まった。

 始まってからエスカレートするのは早かった。漫画やアニメでもここまで早いものはないだろうというぐらいに。数々の黒歴史ができたのはこのときだった。

 世間はそんな僕らに冷たかった。まず、クラスメートは全員無視してきた。面倒ごとには関わりたくないのだろう。先生も無視だ。公になると何かとめんどくさいしな。

 では、家族は? 残念ながら、家族に居場所はなかった。僕の家族は親に弟がいる。弟は非常に優秀。家族からの愛を一身に受けていた。対して、僕はもう諦められていた。運動もできない、成績も悪い僕に用はないといった態度。それもそのはず、僕の家庭は医者家庭だった。当然僕らにも医者になることを強要してくる。最初は、僕を優秀な人間にしようと強制的に教育させてきた。しかし、弟の方が優秀だと判断するとあっさりと僕を見捨てた。何を言っても、親は「勝手にすれば」と言ってきた。

「その代わりに、私たちには迷惑かけないでよね」

 とも言っていったけ。こんな親に助けを求める方が間違いだろう。


 つまり、僕には居場所がなかった。


 それでも、僕は耐えた。いじめられた時期が中三の二学期だったからだ。数か月耐えるだけで、もうおさらばできるのだから。学校は休みがちになったが、勉強はした。片道二時間かかる学校にいくため。それまでの志望校の一つも二つも上の学校だった。そうでもしないと親が遠くの学校に行かせるのを許すわけがないと思ったからだ。

 勉強は嫌いだ。でも、彼らと関わるぐらいなら一千倍ましだ。文字通り死ぬ気で勉強した。


 受かった時は、本当に心の底から喜んだ。これで、彼らとはおさらば。新しい場所にいることができる。新しい自分になることができる。


 しかし、入学式のとき。これは困ったと思った。いじめられていた期間が長すぎて、人との接し方を忘れてしまったのだ。あれ、中学の時どうしていたっけ……? 思っていた以上に心がズタボロで本当の意味で人を信用できなくなっていたのだ。

 これはまずいと思った。そのとき僕はひらめいたんだ。そうだ、素の自分を見せなければいい。道化師(ピエロ)になればいい。そう気づいた。

 だから、わざとでも僕はみんな馬鹿な真似をして注目を浴びようとした。結果、成功した。誠一とあおという二人に出会ったのだから。()()()()()()()

 なのに、どうして……。こうなってしまったの。ひどいよ、神様……。



 今、僕は家に帰ってすぐにこれを書いている。もう、僕は壊れてしまったみたいだ。

 人間みんな敵だ。みんな僕の存在価値を否定してくる。決して僕は悪くないはずなのに。ニンゲンが憎い。憎い。ニクイ。ニクイ。……。

 こんな世の中無くなればいいんだ。みんな消えてなくなればいい。

 そうだ、自死しよう。

 そう僕は決めた。だが、只死ぬなんてそんなしょうもないことするものか。

 僕は今、即席の爆弾を作っている。家は医者だから、薬物なんてそこらに転がっている。勿論、爆発物も。作るのは容易い。

 僕が人に迷惑をかけて死ぬことで、僕の存在価値は永遠のものとなる。何と素晴らしいことだろう。


 死は救済なのだ。


 そういえば、昔まだ家族が僕を見放してなかった頃、父の書籍を覗いたことがあった。まだ少しは優しかった父が「面白いよ」といって貸し出してくれた本があった。


 太宰治『人間失格』


 幼い僕はなんとかその本を三日かけて読んだが、そのときは何が面白いのかよくわからなかった。


 今ならわかる。あれほど面白い話はない。少し違うが僕と似たもの同士だ。そう思った。


 それと同時に僕はははと笑っていた。


 ああ、僕はもう人間(ヒト)ではないのだな。と。



 ―――――――――――――――――――――――



 文はそこで終わっていた。


「はは、だっせ」


 読み終えた僕は自然とその言葉が漏れていた。

 興味がなくなったので、そのノートをぽいっと放り投げる。

「さてと、食料を探そう」


 放り投げられ床に捨てられたノートはもう誰にも読まれることはないだろう。


 永遠に。



胸糞悪いこの作品を読んでいただきありがとうございました。また、どこかで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ