TASさんがバイトするそうです。
TASさんを強引に現代にねじ込んだ部分もあるので違和感あるでしょうがご容赦下さい。
ここは某有名スーパーのうちの一つ。そこで朝のミーティングが行われていた。
僕はどちらかというと古参の方であろう、何気にレジ班長の30歳のナイスガイだ。
「えー、今日から新しく入る…なに君だっけ?」
店長が女性の方を向く。普通という言葉がしっくり来るような、そんな子だった。およそ20歳後半と言うところだろう。
流れ的には関係ないのだが、脳裏にこんな事をふと思い出した。噂に聞いたことがある。
見た目は普通なのに何もかもが洗練されていて、とても…
「タスコです、よろしくお願いします」
速い子がいる、と。
彼女は手早く挨拶を済ませ、お辞儀をした。無駄の無い動きでいて、洗練されている。熟練と言うわけではないのだ、どこで勉強したのだろうか。
そして、私の頭は一つの結論を導き出した。と言うか察した。
考えるまでもない。この子だ。それ。
「えー、彼女にはレジ打ちを担当してもらう。教育係は山田、頼めるか?」
加えて教育係は僕だそうだ。人員の入れ替わりの激しいこのスーパーでは、教育係になることも珍しくない。
「了解しました」
「えー、では、これでミーティングを終わる。今日も一日、お願いします!」
「「お願いします!!!」」
いつもの挨拶を終え、各々が自らの場所につく。僕も彼女を連れてレジのコーナーに移動した。
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「やり方は分かる?ここをこうして…」
ーーー15分後
「分かりました。よろしくお願いします」
「よろしく。頼んだよ、期待の新人」
無表情で返された。なんか悲しい。
ーーー更に30分後
「「それでは、開店致します。」」
開店と同時に行列となっていた先頭の人たちが怒涛のようになだれ込んでくる。
何で分かるかって?勘だよ。
チラリとタスコ君の方を向いた。無表情だな。と思ったら何か呟いてる。凄いスピードだが声が小さいのでここからだと聞き取れない。
面白い子だな。
ーーー20分後
先ほど行列を形づくっていたお客さんがカゴ片手にレジコーナーへと入る。レジは8列程あるが、たまたまタスコ君の方へ向いた。そしてそのまま私の体は硬直した。
そこにあったのは無表情のタスコ君とその前で硬直しているお客さんだ。しかし彼女の手は目にも見えぬ速さで流れるようにカゴから商品を取り出し、バーコードを読み取って反対の空のカゴへと入って行く。
ネット等で見たことがある。ゲームをクリアするまでのタイムを極限まで縮め、それを競うもの…確か…
「「TAS」、だったか」
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それから1ヵ月程し、彼女は退社した。
そのときには既に正社員になっていて、店長もかなり渋ったという。
「よし、じゃあ今日も一日お願いします!」
あれから10年。私は店長へと昇進していた。
「「よろしくお願いします!!!」」
店長にもなると現場仕事ではなく、管理する側になり、暇になる。ここの店員は真面目だからな。
「失礼します。新しいバイトの履歴書です」
寛いでいた私の前の机に紙が置かれる。前を見れば若手の男社員が。昔は私もああだったなと思い出す。目線を紙へと向ける。
どれどれ…あれ?
どこかで見た気がするなぁ…まぁ、気のせいか。
「オッケー、受理しとくよ」
「了解しました!」
彼は深々とお辞儀をして戻っていく。
そう言えばあいつ、親がゲーム会社の社員だったんだっけ。
ゲーム…ん?あ!
「タスコ君!」
その声は誰にも聞かれることもなく、辺りを反響するのだった。
TASさんものはもう少し書くかもしれません。