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響と凜音②

そうこう言っているうちにも、お父様に手を引かれ、龍門寺家のお手伝いさんに導かれ、お屋敷の奥へ奥へと連れていかれる。


「お父様、帰りたいなあ………」

「緊張しているのかい?」

「………、そう!そうなのよ!緊張して声が震えちゃいそうで……。こんな情けない姿を見せたくないから、また今度じゃだめかしら」


必殺!美少女の上目遣いからのおねだり交戦。


「大丈夫。そんな真緒も可愛いよ」


ちゅどおおおーん!

あえなく撃沈。くそぉ。


この、素晴らしい容姿を駆使しておねだりしても効果なしとは………!


「着いたよ、ここだ」


どうやら来慣れてるみたいですね。

お父様はある扉の前で止まると、ノックもせずに「入るよ〜」と気の抜けた了承を得る声を掛けて(了承を得る気はあるのかなあ?)さっさと部屋に入ってしまう。そして、引きづられるようにわたしも入室。


ちょっと!

心の準備が!

これからのわたしの人生を揺るがす(かもしれない)案件だというのに!


中は、とても広々としていた。部屋の真ん中にソファだったり、執務机が窓際にあるところを見ると、そしてそこに龍門寺会長(オーラがそう訴えてる)が座っているのを見ると、ここが龍門寺会長の執務室なんだろう。


そして、わたしたちに背を向けるように、窓の方を向いて座っている男の子が2人………。


げ………。まさか本当に会うことになるとは……!!会いたくないなあを逃げ道に、おうちに帰りたかっただけなのに!実際に、会いたくないけど!神様ごめんなさい!もう由紀さんに隠れて部屋でお菓子を食べ散らかしたり、ベッドの上で飛び跳ねながらジュース飲んでこぼしたり、料理長に内緒でつまみ食いしすぎてお兄様たちのお菓子を食べ尽くしたりしないから、あのふたりに会うことだけは許して!


あ、でも、あのベッドの上で飛び跳ねると、トランポリンみたいで面白いんだよねえ。


ううん。あのふたりに会わなくてすむならもう絶対にしないから!神様!この憐れな女の子1人を許してくださいませ!



「久しぶりだね、響くん、凜音くん」


あああああああああああああ!!

わたしの穏やかなほのぼのライフがぁっ!

何やってくれちゃってるの、お父様!

そして、そのまま何も言わないわけにも行かず、お父様からの頑張っての目線を無視するわけにも行かず。


「初めまして、真緒です」


あーあ、言っちゃった。

あーあ、わたしの人生が!

そんな不満たらたらな気を微塵も出さず、顔にあった可愛らしい笑顔で自己紹介をした。そもそも、自己紹介というのかも謎だが。ただ名乗っただけであるが。


どうよ!由紀さんや料理長のお説教をどうすれば短くなるか研究し尽くした結果得た、最高に可愛らしい笑顔は。

ふふん。

完璧のはずだ。


「あーあー、良かったねえ、君に似てない可愛い女の子に育って。ほんとに可愛いねえ。真緒ちゃん、おいでー」


龍門寺会長は、とても人当たりの良さそうな優しい笑顔を浮かべてわたしに向かって手招きした。


でも、そっちへ向かおうにもお父様の手が離れないとわたしは動けない。そして、お父様は手を離さない。


お分かりだろうか。わたしはこの場から動けないのである。


「僕に似たからこんなに可愛い子が生まれたんだよ?」

「はあ?奥方に似て、いい子じゃないか。お前の血など1滴も引いておらんのかもなあ」

「この子は正真正銘、澪川家の、僕たちの自慢の娘だから」

「ほおお。そうなのかい」

「そうなんだよ、しらなかったの?もう認知症?可哀想だねえ、まだ三十にもなってない男がねえ」

「私より2つ年上のお前もそろそろピンチなんじゃないか?足腰よわってきて日常生活が大変なんだろう?この間は、杖なんて持ってたもんなあ」


この場から。


そうして口論が続き、それは龍門寺会長の奥様がお見えになるまで続いた。

長かった。実に長かった。

お父様も会長も楽しそうだから良いのだが、その場にいるのは辛い。ソファに座る2人も、目を合わせまいとそっぽ向いてお喋りしてるし!わたしもそっちの方がマシかもーって思えるくらいには、長かった。そして、一番辛かったのは、吹き出してしまいそうになるのをこらえることである。


「真緒ちゃん、初めまして。あそこで言い合っている碌でなしたちの、執務机に向かって座っている方の妻よ。おばさんって呼んでくれると嬉しいな」

「え?おばさん!?まだ若くてお綺麗な方にそれはちょっと………」


事実である。

もう一度言うが、本当に事実である。


ピッチピチの白くて綺麗なお肌。つやっつやの黒髪。小顔。スタイル抜群。文句無しの美女である。お母様に引けを取らない、誰もが認める美女である。


「嬉しいことを言ってくれるのね」


いやいやいや、事実ですって。


「貴女のお母さんやお父さんとわたしたちは学生の頃から仲が良かったのよ。だから、わたしは真緒ちゃんのお義母さまよ!」


左様でございますか。

まあ、わたしに心強い親戚ができたんだ。そうだ………、そうだよね!そして。


「新しい家族が増えて嬉しいです、おばさま!改めて、真緒です。宜しくお願いします」


完璧な笑顔付き自己紹介を、おばさまの美貌に負けじと頑張った。


「息子しかいないから、娘が欲しかったのよー!こちらこそ嬉しいわ!」


あ、これは着せ替え人形(着せ替える方。そしてわたしが着せ替えられる方)推進委員会に新たに人が加わったな。


着せ替え人形推進委員会とは、由紀さんとお母様とお父様から成る、わたしを着せ替え人形にしたがる人々が集まった委員会である。最近は、お兄様たちも入りかけている。何かとやれドレスだー、やれ服だー、やれ新しい髪型だー、アクセサリーだー、と結構辛いのである。贅沢なことを言っていることは分かっているが、着せ替え人形は本当に辛い。ずっと人形になっていると、腕とかぷるぷる震えてくるし。


そしてその後、おばさまが来たことで我に返ったらしいお父様たちが話した結果、わたしは響様と凜音様とお庭の方で遊ぶことになった。


何故こうなった!

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