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それでも彼らは眠らない。  作者: Riviy
第一章 それでも彼らは生きる
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第四話 彼らの任務は、



翌朝。

零耶と玲御は朝食を終え、配られた今日の任務に向かうために一階の車庫兼玄関ホールに向かって階段を降りていた。


朝食は【AVANOLSアヴァノリス】が担当している。朝食、夕食を提供しているのは【AVANOLSアヴァノリス】のある女性とその女性の恋人である男性、そしてその2人によく懐いている少年の計3人である。彼らも任務があるので昼食時は各自だがそれ以外は彼らが提供している。彼らの料理は栄養満点でとても美味しい。零耶と玲御の双子もその料理を食べ、栄養を蓄え、任務に向かっていた。


「今日は一緒だよな」

「うん、そうだよ」


階段を降りながら零耶が訊くと彼女は嬉しそうに笑いながら頷き、手元の機器に目を落とした。カタカタと彼女の腰に佩刀された太刀と零耶の腰に帯刀された短刀が音楽を奏でた。

玲御の手元には小さい箱の形をした機器。これは任務用の機器で【AVANOLSアヴァノリス】が所持している。上の部分が鈍い灰色の画面になっており、残り下の部分はキーボードになっている。零耶もその機器を持っているが今回は同じ任務なので片方だけで良いと思ったのか懐に仕舞っている。


一階に辿り着いた双子は玲御の持つ機器に映し出された数字を頼りに薄暗い車庫兼玄関ホールを今日乗る車を探して歩き回る。だいたいの車がもう出払っているらしく、所々にはシャッターが開き、外の光が入って来ているエリアもある。


「何処だっけかなー」

「四番車だろ?それならあっち…あった」


2人の先には黒いバンが一台止まっていた。スモークガラスを使っているのか窓から中を見る事は出来ない。黒いので白い傷が目立つ。2人がそのバンに向かっていると上から誰かが落ちてきた。いや、落ちてきたと云うのは適切ではない。正確には上から降りてきた。一階の天井には2本の鉄骨が通っている。そこから飛び降りてくるのは一人しか考えられない。

コンクリートの床に着地したその人物を見て、玲御はクスリと笑うが零耶は呆れたように苦笑した。


「なにやってんだ、統軌」

「何、って。いつも通り上から観察してたけど?」

「あんたはなぁ!!」


着地した状態で「それがなに?」と言うように当たり前に言うので零耶は彼の頭を叩いた。統軌が「イタ?!」と声を上げ、立ち上がった。その顔はいくらか怒っているようだった。


「危ねぇだろぉが!こっちの事も考えろ!」

「?ちゃんと確認して降りてるよ?」

「気配を出せよ気配をっ!」

「気配って出すものじゃないよね?!」


なんだかよく分からない言い争いを繰り広げる2人に玲御が腹を抱えて笑い出した。楽しそうな笑い声がキョトンとした零耶と統軌を包み込む。


「ハハハ、ハハハ、ハー笑った。君らよく分かんない言い争いしないでくれよ。ツボる」


目尻にたまった涙を指先で拭き取りながら玲御が言う。どうやら2人の言い争いがツボったらしい。2人は先ほどまでー玲御曰くよく分からないー言い争いをしていたにも関わらず、顔を見合せると軽く吹き出した。そして3人で小さく笑う。とバンの運転席から誰かが身を乗り出して3人に声をかけた。


「おーい、悪いがそろそろ行くぞ」

「あ、右京の兄さん」


身を乗り出したのは右京だった。と云うことは、と零耶がバンの後ろの扉ーハッチバック(両開きになっている模様)ーを開けると助手席に左京が乗っていた。

つまり、今日の任務は零耶、玲御、統軌、左京、右京の5人と云うことだ。


「今、乗るー」

「統軌、レディーファースト」

「あら、ありがとう」


乗ろうとした統軌の首根っこを掴んで下がらせるとレディーファーストで玲御を先に乗せた。その後に統軌が乗り込み、最後に零耶が乗り込んで扉を閉めた。中は改造されており、両脇に2人から3人掛けのソファーが置かれている。左京が一度、降りて、シャッターを開けると戻って来た。右京は全員が乗ったのを確認し、外の光の中へと車を発進させた。


…*…


ガタゴト、とでこぼこ道を走っているために車体が揺れる。零耶達は任務先の場所に着くまで思い思いに時を過ごしていた。緊張感の欠片もない。これでも戦闘専用人種、【AVANOLSアヴァノリス】かと思うと零耶はこの楽しげ空気が可笑しかった。が口には出さないでおいた。


「まだ着かない?」

「もう少しお待ちください、統軌」


統軌の問いに後ろを振り返りながら左京が言った。ゴトンッ、と車が石か何かを踏んだらしく大きく跳ねた。後ろに乗っていた3人全員、天井に頭をぶつけ、痛みにもがいた。


そんなこんなで目的地に到着。

バンから降りた場所は廃れた何処かの街だった。左京と右京がバンを何処かに隠してくるまでの間、3人はここいらで出現したと云う【神穢シンエ】を探す事にした。

歩いても歩いても、廃れたビルしか見えない。こんなに廃れているせいか地面まで廃れているように、一歩足を踏み出すたびに零耶は思った。


「そう言えばさ、武器の調子どお?」


前を歩いていた統軌が2人を振り返って訊く。零耶に向かっての質問ではない。玲御に向かっての質問である。玲御は自慢気に「ふふん」と胸を張って笑った。


「どおも何も、あれから私の"二葉月ふたばつき"ちゃんは絶好調だよ!」


玲御は満面の笑みで言う。彼女の武器である"二葉月"は暫く前に切っ先が闘いで欠けたのだ。だが、修理が済み、彼女の武器はまた一段と素晴らしくなっていた。


「私の"二葉月"ちゃんの持ち味は絶対に折れないって事だからね!欠けたけど!」

「俺の"小鶴"は切れ味だな!」

「僕の"燭"にだってあるよ!」

「「それなに?」」

「うっ…知ってるくせに言わせないでよ!」


統軌が不満そうに2人に向かって両腕を振り上げる。それを2人はオーバーリアクションを取りながらかわす。【神穢シンエ】探しが退屈になった3人の楽しそうな声が廃墟と化した街に響く。


「?!」

「………来たな」

「来ちゃったねぇ」


と、ドシン、ドシン、と地面が微かに縦に揺れ始めた。先程はしなかったその揺れは3人に近づくにつれ、大きくなって行く。3人が武器を構え、その振動の出所を探る。ハッと零耶がある方向を振り返った。振動はそちらから聞こえてくる。他の2人もそちらを向いて警戒する。


「来た」


そして、現れたのは黒い、大きな物体。目であろう部分にはエメラルドが散りばめられ、その両腕には翼のような刃物がついている。そんな異様な姿をしていてもその姿からは何故か神々しい雰囲気が漂っていた。それが【神穢シンエ】の特徴の一つである。【神穢シンエ】はゆっくりと3人に向かって来ると翼のような刃物がついた左腕を3人に向かって突然、振り下ろした。

さあ、狩りの開始だ。


左右にわかれて避けた3人は即座に態勢を立て直すと誰が何を言うまでもなくすぐさま、【神穢シンエ】に向かって跳躍した。

零耶が【神穢シンエ】の左腕に飛び乗ると二の腕辺りから切れ味抜群の、自慢の短刀を突き刺し、そのままズサーと滑らせる。黒い皮も黒い骨も切り裂くその切れ味に【神穢シンエ】は不気味な悲鳴をあげる。と、今度は足元でなにやら痛みが。足元では玲御が"二葉月"(以下、太刀)を振り回し、攻撃していた。そこに【神穢シンエ】が右の拳を振り下ろす。玲御が気づいた時には既に目の前で、一瞬、彼女は固まってしまった。がそんな彼女の手首を引っ張って、左腕から降りた零耶が共に退避する。拳はドゴン、と音を上げて土煙を撒き散らす。と今度は散りばめられたエメラルドが目の前で何かを捉えた。それは統軌。統軌は【神穢シンエ】が動き出すよりも早く、肩、脳天と飛び移り、刀を垂直に


「これで逝ったら楽だよね」


ーおちゃらけたように笑った後ー突き刺した。その途端、シュボッと何かが縮むような音が響いた。統軌は首を傾げながら2人と合流すると動きを止めてしまった【神穢シンエ】を見上げる。


「………なに起きてんの?」

「俺達が知るわけねぇだろ…」

「誰だよ、簡単に終わるって言った奴ぅ…」


ドンッ!3人に向かってエメラルド色のビームが放たれた。全員がそれらをかわし、見ると【神穢シンエ】の姿は少々小さくはなっていたが、その近くに直径3mほどのエメラルドが数個浮かんでいた。それを見た3人は一気に理解した。攻撃手段変えやがった、と。

零耶が短刀を構え、2人に向かって叫ぶ。


玲御レーミ、統軌!左京の兄貴と右京の兄貴が来るまで足止めすっぞ!」

「分かった!」

「任せな!」


2人が力強く答える。そして3人は再び、【神穢シンエ】に向かって跳躍した。跳躍すると共に3人を空中に浮かぶエメラルドが狙い撃つ。それらを器用に避けながら零耶は【神穢シンエ】に迫ると地を蹴り、大きく跳躍した。そしてそのエメラルドを蹴散らすように短刀を振り回す。玲御と統軌がその間に本体に飛び移り、肩や腕、足などに素早く移動しながら、【神穢シンエ】を翻弄しながら攻撃する。

その時、ジュッと云う何かが焼ける音と匂いが零耶の鼻と耳に届いた。そして数秒遅れてやってくる鈍い痛み。


「うっ…」


しまった、と思った。零耶は自分の後ろに回り込んだ別のエメラルドに気づかなかった。そのエメラルドが後ろから零耶の右足にビームを放ったらしい。零耶は【神穢シンエ】の頭から跳躍しようとしていた時だったので右足の痛みにバランスを崩し、そのまま落下。零耶は短刀を使って何処かでスピードを緩めようとするが如何せん、良いところがない。

地面に上手く着地した零耶はすぐに動こうとするが右足の痛みに顔をしかめた。【神穢シンエ】の目であろう部分のエメラルドが細められる。空中に浮かぶエメラルド全てが動けない零耶を狙う。


「零耶!玲御、間に合う?!」

「うんん!今から飛び降りても……"二葉月"ちゃん 、たのmーーーー零耶レーヤ!」


神穢シンエ】の肩付近で玲御と統軌が悲痛な悲鳴を上げた。その途端、エメラルドが零耶に向かってビームを放つ。零耶は短刀の柄を握り締め、弾き返せるだけ弾き返そうとした。じわじわと右足の痛みに意識を持っていかれぬよう

神穢シンエ】を睨み付ける。



「………この、音…」


突然、響いて来た美しい音色にエメラルドの攻撃が零耶ではなく、【神穢シンエ】本体を攻撃した。玲御と統軌が跳躍して零耶の元へ行くと全員で【神穢シンエ】を見上げる。【神穢シンエ】も何故、自分に攻撃してきたのか分かっていないようだった。零耶はこの音に覚えがあった。この音色はーー


「右京の兄貴?!」

「よぉお前達。後はオレ達に任せな。左京、行くぞ」


零耶が驚きながら振り返るとそこには扇を持つ左京と大太刀を担いだ右京がいた。右京はポン、と零耶の頭を叩くと左京を促して大きく跳躍した。


「キミたちがボクたちが来るまで闘っていたので、すぐ終わるでしょう。そこで待っていなさい…"桜花姫"・桜踊剣おうようけん!」


左京が3人に笑顔を見せて安心させるように言うと前に出て、扇を【神穢シンエ】に向かって突き上げた。途端、彼の頭上に大きな桜が現れたと思うとそれはパラッと美しく散った。その花びら達の中からこちらも大きな剣が姿を現す。


AVANOLSアヴァノリス】は武器の性質を細胞に組み込んでいる。自身が使う武器と自らが持つ武器の性質をシンクロさせて大きな技を放つ。簡単に云えば一心同体関係にある武器の力を引き出しているのである。


左京が現れた剣を扇で示しながら扇を振り抜くとその大きな剣はスッと【神穢シンエ】に向かって直進した。エメラルドの攻撃もその大きな刃で跳ね返し、逆に消滅させていく。【神穢シンエ】がゆっくりとした動きながらも無事な腕の刃物をその大きな剣に向けて振ろうとする。が、目の前に跳躍した右京が現れ、【神穢シンエ】は驚いたように少し後退りした。彼はニィと嗤い、


「"黒鴉"・純黒じゅんこく!」


黒いオーラを纏った大太刀を振り下ろした。ズバッと【神穢シンエ】の顔と右腕が真っ二つに裂けた。だが【神穢シンエ】は倒れない。右京が消え、【神穢シンエ】が左右に分かれてしまったエメラルドの目で捉えたのは既に目の前に迫った大きな剣であった。


反撃も、防御も取れずに【神穢シンエ】の胴体に大きな剣が突き刺さる。地響きのような悲鳴をあげて、【神穢シンエ】は黒い霧と化して消えた。


「………すげぇ」

「凄い…」

「…すごぉ…」


2人の闘いぶりを見た3人が誰に言うわけでもなく、呟く。戻って来た右京がにっこりと笑うと全員が任務達成を喜び、笑い合いながらハイタッチをかわす。


「さーって、帰んぞー」

「右京の兄さん、待ってー!」

「零耶、もう少しゆっくり歩く?」

「いんや、大丈夫。ありがとな統軌」

「早く治ると良いですねぇ」


さっさと帰ろうと隠したバンの方向へと歩いて行く右京を玲御が慌てて追う。零耶は統軌に肩を貸して貰いながら負傷した右足を引きずり歩く。その後をゆっくりと左京が追う。


廃墟と化した街に楽しそうな彼らの声がいつまでも響いていた。



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