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突入、増援

 埼玉に作られた地下都市は全部で七か所。討伐軍はそれらがどこにあるかを全て把握していたが、そのどれに「本部」があるのかまでは把握していなかった。それ以上調べるには直接出向いて確認するよりなく、だったらこの際殴りこんでやろうとメッサーが提案したのが、今回の討伐作戦が実行される大まかな流れであった。

 そして討伐軍は、その七か所全てを同時に襲撃することにした。ベイル達はメッサーと共に、たった四人でその内の一か所を襲うことにしたのだった。提案者は地上に残って全軍の指揮を行うキルシュであった。

 

「私の直感なのだが、君たちは千の兵に匹敵する強さを持っている。だから君達四人で集まれば、何が来ても難なく切り抜けられるだろう」

「それはいいな! 俺は賛成だ、大賛成ぞ!」

 

 メッサーもそれにいの一番に乗った。余所者のベイル達はそれに文句を言う道理もなく、それに従うことになった。

 

 

 

 

「で? どこからその情報を掴んだんだ」

「何の話だ?」

「ここに地下都市があるって話だよ」

「ああ、あれか。簡単な話よ。前に捕まえた怪人を帝都に護送していた一団が襲われる事件があってな。その襲ってきた連中の後をつけたら、ここに辿り着いたってわけだよ」


 彼らの降りた地下都市は、都市と言うよりも小さな町と言った場所であった。高層ビルの類はなく、コンクリートで作られた小振りな建物が規則正しく建築された、簡素な街並みの広がる所であった。ちょっと活気のある田舎の都市と言った感じである。町の景観はそのまま残されていたが、建物の外壁はあちこちがひび割れ、窓ガラスは割れ、看板は傾き、人の気配はまったくしなかった。遥か天井につけられた人工照明によって照らされたその街並みは、まさにゴーストタウンであった。

 そんな地下都市に降りて後、ベイルからかけられた質問に対し、メッサーはそう答えた。彼は襲ってきた怪人の顔面を鷲掴み、遠くに投げ飛ばしてから、ベイルに対して話を続けた。

 

「確かその時護送してたのは、クロードとかいう奴だったっけ。怪人と結託して、あれこれ良からぬことをしようとしていた奴だ。ベイルよ、お前聞き覚えはあるか?」

「クロード?」


 シマウマ怪人が振り下ろしてきた棍棒をボーンソーで両断し、がら空きの腹に蹴りを入れて怪人を昏倒させた後、ベイルは言われた名前について記憶の海を手探った。数秒動きを止めて思案した後、彼は首を横に振った。

 

「いや、無いな。初めて聞く名前だ」

「そうか。まあとにかく、襲ってきた怪人共はそのクロードと、そいつと一緒に逮捕されていた怪人を強奪して、ここまでやってきたってことだ。我が軍の偵察部隊がそれを突き止めて、ここに奴らのアジトがあると判断したのだ」

「優秀な偵察部隊だな」

「その通り。彼らは二十四時間、三百六十五日、ありとあらゆる場所で活動している。まさに我らグリディアの目なのだ」


 メッサーが誇らしげに言ってのけ、牛怪人の腕を掴んで投げ飛ばす。投げられた怪人は後ろにいた他の怪人を巻き込み、彼らは派手な音と悲鳴を上げながら薙ぎ倒されていった。

 

「でも、面倒なことになりましたね」


 流れるような動きで怪人三人を立て続けに切り捨ててから、メリエがメッサーを見て言った。正確には彼女の視線は、メッサーが腰につけていた通信機に向けられていた。

 

「こちら第四部隊! 敵の襲撃を受けている!」

「こちら第三! 怪人に襲われている!」

「どうなってやがる! こっちにも怪人がいるぞ!」


 通信機からは、ひっきりなしに無線連絡が届いていた。それらは他の地下都市に向かった部隊からのものであり、その全てが驚愕と動揺に満ちた声を上げていた。

 討伐軍は最初、「当たり」は一か所だけだと見ていた。しかし実際は、七つの地下都市に全てに怪人が巣食っていたのだ。

 

「アタシらを待ち伏せてたか、もしくは地下都市全部があいつらの基地になってたか。どっちかだろうな」


 犬頭の怪人の首根っこを掴み、至近距離で火を噴いて顔面を焼き払ってから、ベーゼスがメッサーに言い放つ。そしてベーゼスは怪人を投げ捨ててメッサーと背中合わせになり、ベイルとメリエも両脇につく。

 そんな彼らを取り囲むように、大量の怪人が集まって来る。何十人という怪人の群れを前にして、四人はまったく絶望していなかった。

 

「どれだけいるんだこいつら」

「キリがありませんね」


 その代わり、ベイルとメリエはうんざりしていた。その横でベーゼスとメッサーは喜びの表情を浮かべていた。

 

「へっ! 上等だ、いくらでもかかってきやがれ!」

「ハハハッ! このメッサーに勝負を挑むとは、よかろう! まとめて面倒見てやる!」

「バーサーカーめ……」


 そんな戦闘狂二人を横目に、ベイルが呆れた声を出す。メリエは黙って肩を落とし、首を横に振る。そしてそんな四人を見た怪人連中は、自分達を前にして全く怯まないその姿を見て動揺しつつも、じりじりと詰め寄っていった。

 包囲網は完全に構築されていた。四人は背中合わせになりながら、こちらにゆっくり近づいてくる怪人共を待ち構えた。数だけ見れば明らかにベイル達の劣勢だったが、彼らは四人とも、本気でここを切り抜けられると思っていた。

 

「皆さん! こっちです!」


 その時、不意に頭上から声が聞こえてきた。その場にいた全員が、反射的に上を見上げる。

 ベイル達の後ろにある三階建ての小さなビル。声はその屋上から聞こえてきた。そこにはバズーカ砲を肩に担いだ、小柄な青年が立っていた。

 そしてその青年は、相手の反応も待たずに担いでいたバズーカ砲をベイル達に向けて構えた。

 

「おい、待て」


 ベイルの制止も聞かず、引き金を引く。細長い筒の中から弾頭が飛び出し、尻から煙を吐きながら、一直線に怪人の群れへと突っ込む。

 怪人達がそれに気づいた次の瞬間、弾頭が彼らの足元に直撃した。衝撃がアスファルトを砕き、土埃が爆風に乗って周囲一帯を吹き飛ばす。それをモロに食らった怪人達はなす術もなく弾き飛ばされ、ある者は地面に激突し、またある者は宙を舞って近くのビルの窓ガラスを割って中に突っ込んでいった。

 ベイル達と、さらにその後ろにいた怪人達は、どうにかその衝撃から逃れることが出来た。幸運にも、着弾地点の周りにいた怪人達が壁となり、吹き荒れる爆風と破片から彼らの身を守ったのだ。

 

「早く! 急いで!」


 そんな光景を見つつ、次の弾頭を装填しながら青年が叫ぶ。足元では主に怪人達の悲鳴がこだましていたが、青年もベイル達もそれを無視した。

 

「どうする? あいつの言う通りにするか?」

「体力の浪費は避けよう。ここは逃げるぞ!」

 

 そしてベイル達は、青年の指示に従った。彼らは件の青年のいるビルに向かい、混乱する怪人をはねのけつつ入口を目指す。入口である観音開き式のドアは固く閉ざされていたが、鍵はかかっていなかった。ベイル達はそれを勢いよく開け、全員入ったのを確認してから鍵をかけた。

 ドアの向こうは広間になっていた。その広々とした空間は、かつてはロビーとして使われていたらしく、そこかしこに埃を被ったソファやテーブルが放置されていた。

 

「バリケードでも作るか?」

「駄目だ! 窓から侵入される!」


 ベーゼスの提案をベイルが一蹴する。直後、外から二度目の爆発音が轟く。

 建物全体が大きく揺さぶられる。天井から土埃が零れ落ち、壁に掛けられていた電光掲示板が地面に落ちて派手な音を立てる。

 

「屋上だ! 行くぞ!」


 その震動を体感しながら、ベイルが階段を指さす。残りの三人は素直に頷き、全員階段を目指して駆け始めた。

 彼らが階段に足をかけた直後、広間の窓ガラスを割って怪人が侵入してくる。次の瞬間、彼らのすぐ後ろで三発目のバズーカ弾頭が炸裂する。爆風を背中に受け、乗り込もうとしていた怪人連中が煙共々「入室」を果たす。

 

「急げ! 昇れ!」


 ベイル達はそれに目もくれず、ひたすら階段を昇り続けた。

 

 

 

 

 扉を開け、屋上に到達した四人は、そこで件の青年を発見した。彼はなおもバズーカ砲を担ぎ、そして彼の足元には弾頭を納めた木箱が山積みとなっていた。

 

「良かった。みんな無事みたいですね」


 青年はベイル達に気づくと、彼らの方を向いて笑みを浮かべた。それから彼はすぐに視線を逸らして木箱の一つを両手で持ち上げ、地面に落とす。

 階下で爆発音が響く。黒煙と悲鳴が混じり合い、阿鼻叫喚が巻き起こる。青年はそれを無視して再度ベイル達に向き直り、にこやかに話しかけた。

 

「申し遅れました。私は三船次郎。あなた達を助けに来ました」

「助けに、だあ?」


 ベーゼスが露骨に警戒心を露わにする。そのベーゼスを片手で制しながら、ベイルが彼に問いかける。

 

「本気で言ってるのか」

「はい」

「俺達を、助けに?」

「そうです」


 そこまで言ってから次郎は笑みを消し、真面目な表情を作ってベイルに答えた。

 

「あなた達は、まだここで死ぬべき人間ではありません」

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