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まおー転生  作者: 秋月瑛
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第1話_エクストリーム生徒会選挙!(3)

 第一回エクストリーム生徒会選挙の映像は、現場の中継車からビビっと電波を飛ばして特設会場及び、海上都市アトランティス内のテレビが見られる場所で観覧可能だ。

 レースの勝敗は至って簡単。早くゴールをしたもん勝ち。上位五名が生徒会役員に任命されることとなる。

 見事、生徒会役員になれた暁には三年間の学費免除。さらに会長となった者は舞桜がどんなお願いでも叶えてくれるらしい。

 ちなみにレースには反則が設けられていないため、一部の参加者たちが卑劣な手段を行使することが予想されている。

 それではコースの説明を――と言いたいところだが、レースがはじまるまでコース内容はトップシークレット扱いなのだ。

 ただの徒競走かもしれないし、トライアスロンかもしれないし、最悪の場合は生死を賭けたサバイバルレースかもしれない。

 自主参加者はまだしも、強制参加者たちが不安を抱かないハズがない。

 何が不安を煽っちゃっているかと言うと、参加者の目の前に広がる密林……やっぱりどう考えてもサバイバルだし!

 この密林は関係者の間では、特別演習場と呼ばれる設備だ。野生の自然環境を再現し、動植物もわんさかしている。何の演習場なのかはシークレット扱いだ。

 スタート地点に集められた参加者たちはざっと一〇〇名ちょい。自主参加者はあまりいなかったようだ。

 強制連行された夏希は不安を覚えながら、なんだかんだ言いながら舞桜の傍にいた。この状況下で他に頼る者がないという理由だが、よくよく考えたらこの状況の元凶は舞桜である。

 どこからか黒い邪気がっ!

 かの有名なハウツー本にも描かれている海を割った老人パフォーマーのごとく、その黒い影は割れた人混みを通ってこちらにやってくる――魅神菊乃だ。

「天道さん、事故には気をつけることね」

 その言葉だけを残して音もなく立ち去ってしまった。

 夏希が小さく舞桜に耳打ちする。

「魅神さんだよね。あの人も選抜組なの?」

「ああ、彼女は私を抜いて学年首位の成績で入学したから当然だ。しかし、彼女が選ばれた理由はほかにある」

「(変わり者だからかな?)どうして?」

「彼女の血筋は凄まじい。代々オカルトに家系に生まれ、父はゴーストハンター、母はイタコというオカルト界のサラブレットだからな(重要な戦力となることは間違いないが……)」

 重要な戦力とはどういった意味だろうか?

 レースの開始時刻が刻々と迫る。

 スタートラインギリギリに立っている者は少ない。強制参加組のほとんどは、ちょっと下がったところに立っている。

 もちろん舞桜は先頭に立っている。道連れの夏希も同じ位置。

「天道さん会長目指してる……の?」

「何を今更、学園を支配下に置くためには当然じゃないか」

「(支配下って)学園長なんだからもう十分じゃ?」

「実力で得た地位でなければ意味がないのだよ」

「(この人が何考えてるのかわかんない)」

 生徒会役員をレースで決める時点で意味不明だ。けれど、はじめから『ただの生徒会役員』を選ぶためではないとしたら……。

 五〇〇〇もの生徒がいれば、中にはヤル気満々の命知らずも一人か二人はいるだろう。

 スタート地点で動作過剰で準備体操をする青年。

「ギャーッ足つった!」

 そして、地面に転がって悶える青年。

 どう見てもアホです。ごちそうさま、お腹いっぱいのアホでした。

 AHOとは空気感染を引き起こすウイルスの一種だ。耐性のない者はすぐに感染してしまう。それ故に、アホは無視するのが一番である。

 だから地面で悶えるアホに優しい言葉なんて掛けてはいけないのだ。

「大丈夫?」

 夏希が声を掛けてしまった。

 目と目が合う瞬間。

 時間が止まり、まるで世界にいるのは二人だけ。

 青年は静かに言葉を紡ぎ出す。

「家族以外の女に声を掛けられたのは一年と三ヶ月ぶりだ」

 ……キモッ!

 そうと決めつけるのはまだ早い。引きこもりだったから仕方なく……それはそれで(コメントは差し控えさせてもらいます)。

 変なヤツに関わってしまったと気付いても遅い。普通は関わる前に気付くものだ。これがアホウイルスの恐ろしいところである。

 夏希がどうやってこの青年との関わりを断つか考えていると、いきなり!

「オレ様と結婚してくれ!」

 出会って三分もしないで愛の告白!

 慌てる夏希。

「え、え、えっ、そんなこと言われても困る!」

「その通りだ、私の女に手を出さないで貰おう!」

 白い鞘から(はし)った輝線(きせん)

 刀の切っ先を青年の首に筋に突き付け、そこには舞桜が立っていた。華麗な銃刀法違反だ。

 殺意のこもった瞳で舞桜は青年を睨んでいた。

「邪道ハルキ……久しぶりだな」

「邪道じゃない覇道(はどう)だ。会わないうちに……オレ様より身長高くなりやがって、ショックで立ち直れねぇ!」

 両手両膝を地面に付けるという、ネット上で有名なポーズで落ち込む覇道ハルキ。

 どうやら二人は知り合いらしい。

 落ち込んでいたかと思うと立ち直りも早いハルキ。

「だが、身長は伸びても胸はぺったんこだな! 胸囲で勝負したらオレ様が勝てるくらいの無乳だな! 勝った、オレ様は勝ったんだ、あの大富豪の天道一族に勝ったんだ!」

 目頭から熱い心の汗を流しながら勝利を噛みしめるハルキ。

 舞桜は眼から冷凍ビームをハルキに浴びせている。

「むにゅぅとは何だ、新種の軟体動物かなにかか?」

「無い乳って書いて無乳だバーカ!」

「つまり私のことを蔑む暴言と解釈するべきだな。しかし、胸がないことに私は何のコンプレックスも持ち合わせていない。さらに言えば、狩猟民族のアマゾネスは、弓を使う際に乳房が邪魔になることから切り落としていたとも伝え聞く。つまり豊満な胸とは無駄なものなのだ」

「バーカバーカ強がってんじゃねぇよ、バーカ!」

 バカって言う方がバカを体現している素晴らしい標本(ばか)だ。

 ハルキの声なんか右から左に受け流す舞桜は、メガホンでしゃべる職員に耳を傾けていた。どうやらスタートまで『あと一分』というアナウンスをしているらしい。

「夏希、トップでスタートするぞ」

「あたし別に生徒会役員にならなくても……(頼まれてもやりたくないけど)」

 すでに舞桜の視線は遠く、夏希の言葉が届いているかわからなかった。

 スタートまで一〇秒を切った。

 審判がショットガンを構えたのを見て動揺する生徒がいる間に――。

「位置について!」

 3、2、1――。

 バン!

 天空に木霊する銃声の合図と共にいち早く飛び出した舞桜が――コケたッ!?

「ッ!」

「お先に!」

 そう言ってニヤっと笑ったのはハルキ。こいつが足を引っかけたのだ。

 だが、舞桜は超絶的な運動神経を発揮して、地面に手を付いて倒立前転にひねりを加えて華麗な新体操を披露した。しかも、どの角度からもパンチラしないという神業。

 が、着地の瞬間に完璧は崩壊した。

 グキッ!

 これは実際に聞こえた音ではない。心象の音だ。まさにこの状況に相応しい擬音。

 なんと舞桜は着地に失敗して足をひねってしまったのだ。

 ズサーッ!

 しかも、勢い余って顔面から地面にダイブした。

 ありえない、あの天道舞桜がこんな痴態を晒すなんて明日は季節外れの雪が降る!

 カエルのように地面にへばる舞桜の横を静かに通り過ぎる黒い邪気。

「まだ序の口よ、天道さん」

 菊乃だった。

 この瞬間、一部始終を見ていた夏希は思ったことを口に出してしまった。

「呪っ!」

 物的証拠はない。でも、でも……詮索したら呪われそうだからやめておこう。

 恐怖のあまり誰も動けない中、長身の男子生徒が舞桜に手を差し伸べた。

「大丈夫ですか天道さん」

 何故かこの場に鋭い憎悪が駆けめぐった。

 理由は顔に出やすい夏希を見ればおのずと見えてくる。

 瞳をキラキラさせながら、ちょっぴり頬を赤らめる表情といったら?

「(あの人……とってもイケメン)」

 夏希はイケてると思った程度だったが、中には嫉妬を渦巻かせる女子もいる。王子様に手を差し伸べられた姫が目の敵にされたのだ。

 そよ風のような爽やかな風体と、決して暑苦しくない優しい笑顔。一部の非モテの男子からは大変嫌われそうな感じがする。

 だが、そんな王子様もフラれることもある。

 舞桜は差し伸べられた一瞥しただけで、自らの力でゆっくりと立ち上がった。

「男の手は借りない。だが、気遣いには感謝しよう――鷹山(たかやま)雪弥(ゆきや)(闇の狩人と聞いていたが、実際に会ってみると印象が違うな)」

 雪弥は静かに手を下げた。

「僕の名前を知ってるなんて驚きだな」

「(僕……か)全校生徒の顔と名前くらいは覚えて――」

 舞桜の言葉が突然遮られた!

「きゃ〜っ、転んじゃったぁ〜!」

 女子生徒がコケていた。ワザとらしくというか、絶対にワザと。抜け駆けした女子生徒の末路を考えると怖くて眠れない。

 すぐに雪弥はその女子生徒に駆け寄っていた。見事にブリッコの術中にハマった形だ。

「きゃん、あたしも転んじゃったぁ!」

「あたしも〜!」

「わたしも〜!」

「おいどんも〜!」

 次から次へとあがる女子の声。

 ちょっとした特異な状況と化したこの場だが、舞桜には興味のないこと。

「出遅れたが行くぞ、夏希」

 舞桜は夏希の手首を握った。やっぱりこうなるらしい。

「あたしは……あっ、天道さん鼻血」

 舞桜の鼻から鼻血が出遅れた。転んだ衝撃が今になってやってきたのだ。

 が、次の瞬間、ピンクの影が舞桜の前を通り過ぎたかと思うと、綺麗さっぱり鼻血が消えていた。

「どうした夏希?」

 何事もなかったように尋ねる舞桜。

 夏希は動揺しながら、眼を白黒させていた。

「えっ……ううん、なんでもない。勘違いだったみたい(絶対勘違いじゃない。なんだったんだろう、今の影?)」

 結局、ピンクの影はスルーされた。

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