第4話_エクストリーム強盗!(1)
目の下にクマさんを飼ってる夏希はどよ〜んとしていた。
「完全に寝不足だ(まさか本当に学校で一晩過ごすことになるなんて)」
舞桜学園はじまって以来の大事件エクストリーム停電。家に帰れたのは早朝を少し過ぎたくらいだった。それまでの間、酔っぱらい教師に付き合わされるという悲劇。
つまり一睡もできなかった。
しかも、やっと家に帰ってシャワーを浴びて、さてとこれから寝ようかなぁと思ったら、自宅マンションまでリムジンのお出迎え――舞桜だった。
すっかり忘れていたのだが、細菌兵器が撲滅運動がどーとか、NEET撲滅運動がどーとか、とにかくどーとかこーとか。
そんなわけでリムジンに乗り込んだのだが、いきなり舞桜に抱きつかれてノックダウン。逃げる気力もなかった。
「(どうしてこの人、こんなに元気いっぱいなんだろう)」
理由はちゃんと寝たから。
あの一件で邪気に当った舞桜は、保健室にある集中治療室で朝までぐっすりだったのだ。
リムジンに乗って三〇秒。隣のマンションに着いた。
ツッコミどころ満載の出来事だが、もはや思考を停止させたいくらい夏希はゾンビー状態だった。
リムジンを降りると、白い悪夢がそこに立っていた。
爆乳と白衣。
「グッモーニング! 夏希ちゃん元気ないけどどうしたのかしらぁん?」
「誰のせいですか誰の……。てゆか先生なんでそんなにムダに元気なんですか?」
「ベリーヤングだからに決まってるじゃなぁ〜い♪」
「あー頭に来る……じゃなくって、先生の声が頭に響くぅ〜、意識がもーろーとするるー」
だんだんと生死の境が近くなってきたぞ。
ベルが何やら舞桜に耳打ちしている。
聞き終えた舞桜が『ふむ』と納得した。
で、次の瞬間。
舞桜は夏希の体を抱き寄せて熱烈なキッス!
モーニングキッス!
お早うの接吻!
目覚めの一発!
ちゅ〜っ♪
夏希はお目々ぱっちり。
「ちょ、朝からやめてよ!」
「朝だからするのだろう?」
なるほど。
さてと、すっかり夏希ちゃんも目も覚めたところで、突撃オタク訪問と行ってみましょー!
ベルがベルを鳴らす――ピンポーン!
返事がない。
ベルがベルをまた鳴らす――ピンポーン!
やっぱり返事がない。
ベルがドアの前に立って――。
「出てこないとぶっコロスわよぉん、いるのわかってんだからね!」
ドアに殴る蹴るの暴行を加えた。
絶対に返事がない。
普通、あんな脅され方したら、出て行けるものも出たくない。
「NEETウイルスの合併症、居留守ね。仕方がないわぁん」
ベルは白衣のポケットからアイテムを取り出した。
ちゃちゃちゃちゃ〜ん、合い鍵♪
って、最初から使えよ。少なくともドアを蹴る前にカギだろ。
ドアを開けてベルと舞桜が雪崩のように乗り込んだ。
舞桜が片っ端のドアをノックする。
「早く出てきたほうが身のためだぞ!」
ベルが片っ端のドアを殴る蹴る。
「さっさと出てこないとドアにバズーカ撃ち込むわよぉん♪」
そして、夏希は丁重に玄関でクツを揃えてから上がった。
「おじゃましま〜す」
カギの掛ったドアの前に舞桜が立った。
「おそらく感染者はこの中だ。ドアを斬るぞ!」
なんていうかやり過ぎです。
刀の軌跡は幾重にも趨り、瞬く間にドアは細切りにされてしまった。
一気に中に乗り込む舞桜とベル。遅れて気まずそうに夏希が入る。
ベッドの上で掛け布団を被って身を守る少年。
「な、なんだよお前ら!」
明らかに怯えた声だ。
舞桜は刀の切っ先を少年の眼前に向けた。
「風タロウだな?」
「そ、そうだけど……」
「私は舞桜学園の学園長兼生徒会長の天道舞桜、お前のクラスメートでもある。そして、彼女は担任の鈴鳴ベル、後ろにいるのが生徒会副会長でお前のクラスメートでもある岸夏希だ」
夏希はペコリと頭を下げる。
「あ、はじめまして」
頭を上げる前にベルが夏希を押し込んで前へ出た。
「アナタはNEETウイルスに感染しているわ。すでに引きこもりの症状が出ているから、確実に将来NEETになるわよぉん!」
続いて舞桜がしゃべる。
「NEETウイルスとは国家の転覆を狙うテロリスト集団が開発した細菌兵器なのだ。その感染力は凄まじく、電波によって感染する。特にネットによる感染例が多く報告されている」
「ほっといてくれよ」
タロウは掛け布団の中に引きこもった。
舞桜が驚愕の表情を浮かべる。
「立てこもり事件発生だ! 感染者が自分の殻に立てこもってしまった。人質として自分を盾にするとは卑怯な!」
部屋のガサ入れをしていたベルがあるものを発見した。
「これをルックしなさい舞桜!」
ベルが手に持っていたのはテレビゲームのパッケージ。
「そ、それじゃ勇者育成ゲーム! またの名をRPGではないか!? クソっ、こんなところにまで光の勇者の魔の手が伸びていたとは……」
この展開に置いてけぼりを食って独りポカーンとしてしまっている夏希。
「(やっぱりあたしこの人たちのノリについていけない)」
仕方がないので夏希は独り寂しく電源の入っていたパソコンを操作してみる。
どうやらブログをやっているらしく、記事を執筆中だったらしい。
【執筆中の記事】
タイトル:そういうやつらっているよな〜
話題になってないときに散々バカにしてたクセにさ、
なんか話題になったらファンみたいにしゃべりだすやつウザイな。
【数日前の記事】
タイトル:オッパピー
そんなの関係ねぇ!
そんなの関係ねぇ!
【もっと数日前の記事】
[自主規制]って誰?
なんかみんな記事にしてるから気になったんだけど?
【さらにその記事のコメント】
[本人]
んで、そいつがどうしたのさ
そこまで騒ぐくらいなら 何 か あ る ん だ ろ う ね ?
[HN自主規制]
最近[自主規制]って番組に出てて売れてるらしいですよ。
[本人]
そんなゴミ番組見ない。
記事を流し読みした夏希の感想、
「(この人イタイ)」
ベルも近づいてきてほかの日の記事を読みはじめた。
「なんだかヘアワックスのトークが多いわね。この部屋の住人が?」
言われて夏希も部屋を見回した。
ファッションに気を使うような住人の部屋とは思えない。マンガやフィギュアにアニメのポスターが点在している。ほかに置いてある家具や小物は地味な物ばかり。
さらに驚いたのがなぜか置いてある香水。
ベルがツッコミを入れる。
「ヒッキーなのに?」
ヘアワックスもそうだが、いったいどこにつけていくのだろうか……引きこもりなのに。
さらに別の日の記事では精神論を語ってみたり、哲学を語ってみたり、宇宙のことを語ってみたり、思想家ぶってる印象も受けた。
ベルは深く頷いた。
「この患者は中二病にも感染しているわね」
中二病とはジャパンの中学生二年生くらいの青少年によく見られる症状で、子供と大人の狭間で揺れ動く心情が隔たったり歪んだ形で現れるものである。
例えば、幼稚なことを否定して大人ぶるも、汚い大人や政治や社会を批判してみたり、生死観や宇宙について、自分と他人の哲学的思想、身近な物体の存在を問うてみたりすることが多いらしいが、しっかりした大人から見ると幼稚で滑稽に見えてしまう。
現在では実際に思春期まっただ中にいる青少年を示すと言うより、定義は曖昧でそういった人々を包括する言葉になっている。
舞桜は掛け布団を引っ張り剥がした。
「いつまでもこの生活が続けられると思うなよ。君は将来どうするつもりなのだ!」
「フリーターになるからほっといてくれよ」
「な、なんだとフリーターだと!? ジョブシステムを活用して“すっぴん”になるつもりだな! 最初はどうしょうもないプーだが、最終的には最強のジョブというか無職なのにラスボスを倒してしまうというアレかっ!(くっ、光の勇者たちの思想が着々と世界を浸食している)」
妄想しすぎ。
ベルは白衣のポケットから拘束具を取り出した――SMの。
「荒療治が必用なようだわねぇん。学園に監禁するしかないわ、そうすれば少なくとも登校拒否は改善されるわよぉん!」
そういう問題なのか?
不適な笑みを浮かべたベルがタロウに飛びかかった。
「覚悟なさぁい!」
「ぎゃぁぁぁっ!」
その後、[あぁン♪]な恐怖がタロウくんを襲うこととなったのだった。




