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宗教家の講話

 あなたは夢を見ますか?


 眠っている間、ふわふわと、ぼんやりと、曖昧な意識の中で、全く混乱した世界に降り立つ。あの夢です。


 見ますよね?


 あれは、科学的には、脳神経が記憶を整理する間に発生する、混乱したシナプスが見せる幻影だと説明されています。


 でも、それが本当である証拠なんてどこにもありません。


 古今、夢を利用した呪術は山のように存在しています。有名なものでは、幽体離脱や明晰夢、あるいは夢で愛しの彼に会いに行ったり…。もちろん、そのほとんどがいい加減なでたらめにすぎません。夢に対するロマンチックな思い入れが、たくさんの空想を生み出してきたのです。


 でも実は、ほんの一握りだけ、本当の呪術が存在するんです。


 気になりますよね?

 どうやってそれを見分けるのか、まずはそれをお教えしましょう。


 もしも科学者の言うことが正しければ、いくら夢であっても、記憶にないものを見ることはできません。どこかで得たイメージが私たちの頭の中で反響するように夢が生み出されるのですから、これは当然のことですね。


 でももし、世界中のどこでも、歴史上のどの時点でも、全く同じ夢のイメージが語られていたとしたら? そんなものが記録に残っていたとしたら?


 こういう検証を行うためには、新大陸の存在が非常に役に立ちます。1492年以前に新大陸で作り出された彫刻のイメージと、旧大陸で作られた彫刻のイメージがまったく一致しているという奇妙な現象が報告されています。


 それは、たくさんの触腕を顎の辺りから垂らした、さながらタコのような首をもち、背中にコウモリのような不釣り合いに小さな翼のついた巨大な生物です。


 当然、そんな生物はこの世に存在しません。

 そしてこの事実は、いまみなさんが初めて耳にしたのと同じように、そう有名な事実とは言えません。


 さてここで、ひとつの芸術品を紹介しましょう。


 みなさんは、美術品、お好きですか?


 ご心配には及びません。みなさんも一目でその価値がわかるはずです。


 この粘土板は、1920年代のアメリカで、あまり売れない彫刻家によって製作されたものです。いくらか抽象的で分かりづらいかもしれませんが、この巨大な怪物の姿を見てください。


 スクリーンにも写しましょう。


 口からたくさんのあごひげのような触腕が伸びていますね。そして、背中には翼。

 さらに、現在に至るまで解読されていない奇妙な文字が刻まれています。


 みなさんこうお考えになったことでしょう。

 この粘土板を作った人物がこの奇妙な伝承に詳しかったのだ、と。

 あるいは、私の話がこの粘土板をもとにした創作なのだ、と。


 答えは断じてノーです。


 実に不都合な事実と言わざるを得ませんが、この粘土板の製作者、ウィルコックスといいますが、彼は断じて考古学に明るい人間ではありません。それどころか、当時はまだわたしがお話しした奇妙な事実が明るみに出ていませんでした。


 こちらのスライドをご覧ください。


 これはユカタン半島で栄えたマヤ文明に残された石板です。

 ここに、まったく同種の巨大生物が描かれているのがわかりますね。

 続いて、これは日本の浮世絵です。海中から首を出したこの巨大な影は、まさに同じ生物を描いたものと言っていいでしょう。

 さらに、エジプトのピラミッドにもこのような壁画が残されています。


 すべてのイメージに、共通点があるのです。


 それは夢をもとに、あるいは夢を見ながら製作されたものであるということです。


 信じられない?


 そうでしょう。


 では、次の学者を紹介しましょう。


 ユングという学者は、実に面白い学説を唱えています。

 私たち人類には「集合的無意識」なるものが備わっているらしいのです。


 それは私たちの経験を超えて、すべて人類に共通した深層心理に眠るイメージのことです。

 でも、そんなものが本当にあるんでしょうか? 私たちの脳のなかに、生まれながらにして刻みつけられた、共通のイメージなんてものが?


 答えは簡単です。あるにはあるけれども、それは私たちの“なか”にはないんです。


 だって考えてもみてくださいよ。

 私たちのなかにあるなら、私たちはどうにかして、それを思い出すことだってできるはずです。しかし、そんなことに成功した催眠療法の記録は一件たりとも存在しません。


 だとしたらいったい何が、世界中で、時代を超えて見出される“共通のイメージ”を作り上げているのでしょうか?


 ほら、あなたにもわかりましたね?


 夢を扱った呪術のなかにも、本物の呪術がある。


 私たちは「夢見」という儀式を通じて、この宇宙のどこかに漂っているイメージにアクセスしているのです。

 夢のイメージの一部が実在しているとするなら、その夢を媒介にして別の誰かに影響を与える呪術が実在していても、何の不思議もないではありませんか。


 そうしてわたしが身につけたのが、「夢見」の儀式と「悪夢」の業です。

 これを習得するためには、非常に厳しい修練が必要になります。しかし私ほどのものになれば、今日、あなたたちに、私の話が他ならぬ事実だったということをお伝えする夢を見せることだってできるのです。


 私の話を信じるか信じないかを決めるのは、明日の朝、目覚めてからでも遅くありません…

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