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Artista  作者:
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#1「ついてない」

春、出会いの季節。

この話はフィクションです。実際の個人、団体とは一切関係ありません。

誹謗・中傷はお控えくださいますようお願いいたします。

短いです。

なんで、どうして、こんな。

 背後から迫る耳障りな機械音。それが男を焦らせていた。追いつかれぬように無我夢中で走る。そうしていないとおかしくなってしまいそうだ。

 機械に人間が襲われ、殺されることは珍しいことではない。約二十年前に機械が突如暴走し、人類に反旗を翻してからはその手の話を聞くことは日常茶飯事だった。

 でも、まさか自分が襲われるなんて。それも、こんな朝早くから。

 既に避難してしまったのか、あたりには誰もいない。助けを求めることは絶望的だった。仮に誰かがいたとしても、二人そろって殺されるのがおちだろうが。

 それでも男は走るのをやめることができなかった。本能が逃げ続けろと警鐘をならす。それだけに従って、すでに感覚のない足をただただ動かし続けていた。

 不意に足がもつれ、次の瞬間には堅い地面が視界いっぱいに広がっていた。

 ああもう、本当についてない。

 思わず苦笑が零れる。機械音が近くなるのを感じて、男はぎこちなく振り向いた。自分に迫りくる巨体に逃げる気も失せ、ただ茫然とそれを見上げる。あきらめて目を閉じようとしたとき、ふと視界に一組の男女――制服からして高校生だろうか――が入ってきた。こちらを見て、目を見開いている。

まあ、今となってはどうでもいいか……。

投げやりにそう呟いて、男は今度こそ目を閉じた。



予想していた痛みがやってこないことを不思議に思い、恐る恐る目を開ける。見ると目の前にいる巨大な機械は、ギシギシと嫌な音をたてているものの一向に動かない。いや、動こうとしているのに動けないといった感じだろうか。


【どんなにどんなにもがいても、鎖はちっとも緩みません。それどころか、ますますきつくなっていくではありませんか】


まるで物語を語るような口調の声がその場に響き、男ははっと我に返る。先ほど目の端にとらえた男女が、いつの間にか男の目の前に立っていた。言葉を紡いでいる女子生徒は目の前の機械に怯えることなく、ただ言葉を紡いでいた。そのとなりに立っている男子生徒の方からも恐怖は感じられない。機械に直面するという、この時代の人間ならだれもが取り乱すような状況にいながら、二人は驚くほど冷静だった。


【それはもうその身を壊そうとせんばかりの力で締め上げるのです。お前だけは逃がすまい、そう言っているようでした】


女子生徒の紡ぐ言葉に呼応するように、目の前の機械が一層大きな音をたてる。その様子をぼんやりと眺めていた男は、目の前で起こり始めた現象に目を疑った。

いびつな動きを見せる機械の体にうっすらと模様が浮かび始めている。それは見る見るうちにはっきりとしたものになり、徐々に模様から立体へと姿を変え……またたく間に機械は鎖でがんじがらめに拘束されていた。そう、女子生徒が語った情景と同じように。


【とうとう鎖は身体を引き裂き、バラバラに壊してしまったのです】


 その言葉通りに壊れていく機械を見ていた女子生徒が、ちらりと男の方を見た。先程まで紡いでいた言葉を切ると、男子生徒の方に話しかける。

「ねえ、左斜め約十五メートル後方。気を付けて」

 「うん、わかってる」

 男子生徒が頷いた次の瞬間、耳をつんざくもう一つの機械音。もう一体、機械が彼らの背後から迫っていたのだ。

 静かに男子生徒が動いた。いつの間にか持っていた白いチョークで地面に線を描き、そして一言。


【spot】


 と。するとどうだろう、こちらに向かってきていた機械がうそのようにピタリとその動きを止めた。その様子に男子生徒は少しだけ笑う。ゆったりとした足取りで機械に近づき、ボディにチョークをあてて。


 【named list】


 穏やかな表情とは裏腹に殴り書きのように書かれたその英単語は、どうやら機械には毒だったらしい。あの耳障りな機械音すら立てずに、それはゆっくりとバラバラになっていった。無機質で、それでいて獰猛な二つの光が機械から消えていく。もうそこにあるのは機械などではなく、ただの金属片だった。

 ふう、と吐かれた息はどちらのものだったのか、はたまた二人のものだったのか。

 「大丈夫ですか?」

 男子生徒の言葉に、男は咄嗟に反応することができなかった。ぽかんと口を開けて見つめるだけの男に、男子生徒は困ったような笑みを浮かべる。

「あ、やばい」

気まずい沈黙を破ったのは、女子生徒の声だった。男子生徒に駆け寄り、腕時計を示す。

「どうしたの?え、あ、登校時間!」

「そう!新学期早々に遅刻とか……ついてない!」

「いやでもほら、分かってくれるって!」

先程の落ち着き払った態度はどこへやら、あわてている二人はどこからどうみても普通の高校生だ。

「あの、すみません」

おそるおそる声をかけると、二人の視線がこちらへ向けられる。

「た、助けてくれてありがとう。」

男の言葉に二人はきょとんとした表情で顔を見合わせ、そのあとどこか照れ臭そうな笑みを浮かべた。

「たいしたことはしてませんよ」

「無事でよかったです」

それじゃあ。そう言い残して二人は慌ただしく走っていった。その後ろ姿をしばし見送ったあと、男はようやく立ち上がった。辺りを見回す。いつのまにか彼らが壊した機械の断片や、男子生徒の描いたチョークの円は跡形もなく消えていた。男はため息をひとつつくと、自らの目的地へと急ぎ足で向かったのだった。


こんにちは、蒼です。

第一話ですね、なんだかよく分からない出だしになってしまい、自分自身とっても困ってます(--;)

第二話がいつできるかも怪しいところ・・・頑張ります。

ではではこれにて。

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