第四章 王の乖霊
初出:2011/3/9、13、14、4/5、15、5/5、21、9/20、2014/3/7、2015/05/31
ポタリ、ポタリとしずくが落ちる。
石で覆われた空間。ここは――地下牢だろうか。
「まあ……結局は失敗に終わったわけだが」
天劉は、両手につけられた白い手錠をジャラジャラと鳴らして、言った。
実はあの後、城の兵士がやってきてあの男どもも含めて、天劉たちを捕えてしまったのだ。
「状況見りゃわかんのに……ったく使えねえな」
天劉は地面に唾を吐いた。
その時だった。
ガシャン!! といった音ともに鉄格子の扉が開かれた。
「釈放だ。王が謁見したいと申し込んでいる」
そこにいたのはさきほど天劉たちを捕えた兵士。すこし会釈をし、謝辞の意を表している。
「なんだと!? おれらは無実の罪で捕えられてたのにそれはねえんじゃ「わかりました」
天劉が話を終える前に、淕至がすべてをまとめた。
「……では、手錠を外す」
兵士はその手錠のかぎをもっていた。
ちなみに、こんな空間、あの3人の“倚力”ならば抜け出せるはずだった。
倚力というのは、いわば“乖霊の出す力”。
いろいろな特殊な力が備わっており、ある者は『空間転移』、またある者は『反射』、ある者は『電磁射撃』……そんな“常人には到底持つこともできない”力をもっている。
それを生み出すのは“乖霊”。
昔は守護霊、と呼びさまざまな国の様々な人が従えていた。
が、それも今は昔の話。
今はほんのわずかの人間が“乖霊”を従え“倚力”をもっている。
中には例外も居て“人工的に乖霊を作り上げている”のもいるのだが、それはべつにしておこう。
ともかく、三人は兵士に連れられ、城の廊下を歩いていた。
きらびやかな作りになっており、廊下には赤いじゅうたんが敷かれていた。
「やっぱ城は違うな」
「そうだね」
天劉と淕至はそんな会話をしながら、廊下をゆっくりと歩いていった。
部屋にたどり着くまで、どれほどかかっただろうか。
ほのかに傾いた太陽の光が、頭に輪を載せた女性をかたどったステンドグラスに当たり、色のついた影が、廊下についていた。
「うわあ……」
淕至は、ただただそれを見ているだけ。
「……ここだ」
同時に、兵士は立ち止り、振り返り、言う。
そこには、天劉の体の二倍ほどもある、大きい扉があった。
ギィ、という重い音とともに、扉は開く。
扉の中はとても大きかった。
城の中には入ったことがないので“王の部屋”=豪華だと思っていた三人には予想外のことだった。
唯一、足元に赤いカーペットが敷かれていただけ。あとは煉瓦がむき出しになっていて、とても一国の主の部屋には思えなかった。
「よくきてくれた」
奥から、低い、落ち着いた声が聞こえる。
たぶん、この城の主、だろう。
「天劉、淕至、そして精葉……だな」
その低い声の主は、言った。
「はい。そうでございます」
天劉は膝をつき、言った。
「……ふむ」
王は、ただじっと目を見ている。
しかし、不思議な人物であった。
なにか、普通の人物と違うオーラを……放っているのだ。
「……あの? なぜ私たちが“呼ばれ”たんですか?」
精葉は、その質問を王にぶつけた。
「……」
部屋が沈黙に包まれる。
「……それはだな」
王自身が、その沈黙を破った。
「……わしの“乖霊”が判断したからじゃよ」
と、笑いながら言って。
「王が……乖倚人?」
天劉はそれを聞き、驚いた。
「……馬鹿な!? もし王が“乖倚人”ならば私たちの倚力に共鳴するはずなのに!?」
精葉は驚いたように言った。
「……知っておるかね?」
王は一息起き、言った。
「乖倚人にランクがあるということを」
『乖倚人』にはランクがある。そのランクの基準は“力の大きさ”や“種類の珍しさ”だ。
たとえば『サイコメトラー』などといったのは力も弱く、いっぱいいるということで『低能力(レベル1)』となる。
淕至のもつ『人工竜巻』は『中能力(レベル2)』、精葉、天劉も力をもっているが、なぜか『分類不能』の分類に置かれている。
「……“大能力”をもつ者にもなればそのほかの能力者――まあ、『分類不能』は無理だが、の倚力を感じ取れる。“消し去ること”も、な」
「私は“大能力(レベル3)”。『倚力検知』。この倚力を使って私は君らの倚力を“検知”した」
「王が……乖倚人!?」
天劉と淕至は驚いた。
「ああ? わしは大能力、倚力探知。君らがここに来るのも、わかっておったよ」
王はゆっくりとした声で、落ち着いた声で、言った。
「……待て。何か気配がするな……。とても、とても大きな乖霊をもつ乖倚人の気配が……」
突然、王がそう言った。
「出てこい! そこにいるのは、わかっておるぞ!!」
「誰だ!!」
淕至が王の言葉と同時に、王が見た方に、竜巻を送り込む。
しかし、”それがたどり着く前に”消え去った。
いや、同化した、の方が正しいだろうか。
「……な!」
淕至は驚いた。
「……さすがは”大能力”を所持する王だけはある――」
そこから出てきたのは、
――“影”。
そう、頭から足まで、全てが“影”。真っ黒なのだ。
「……貴様…… 何者じゃ?」
王は、ゆっくりと、目を細めて、言った。
☨
「いやはや。あなたに問い詰められてはかないませんね。それと――天劉、でしたっけ? それに淕至、精葉。あなた方もそんなかたくならずに」
「!!」
天劉たちは、突然自分たちの名前を見知らぬ人に呼ばれ、驚いた。
「……なぜ、知っている?」
天劉は、真剣な面持ちで尋ねる。
「おや? “ガリアダスト”から聞いてない?」
“影”は首をかしげる。
――また厳崎じゃなくて“ガリアダスト”か。
天劉はそんなことを考えつつ、その“影”を見ていた。
「……いざっ!!」
そのセリフとともに“影”は高く跳びあがり天劉たちの方に向かってきた。
「む!!」
天劉はすぐさまよける。
それをみて、影。
「……さすがは“ガリアダスト”が認めた乖倚人……。ただの“能力者”ではないようですね……」
「じゃあ、行きましょうか……!!」
“影”はそう言って、一気に飛び去った。
それを見て天劉も高く飛ぶ。
「『オルダン』!! 実体化を認める!!」
大声でそう叫んだ。
それと同時に天劉の右手に大きな剣が生み出される。
「……うぉおりゃぁあ!!」
天劉はその大きな剣を“影”に“ぶつける”。
“影”は重く、にぶい音――おそらく剣が当たった時に出たのだろう――とともに落ちていく。
落ちた衝撃で、床が割れる。
「……やりすぎちまったかな?」
天劉は大きな剣を簡単に肩に乗せる。
「それで勝ったつもりですか?」
「……なっ!!」
天劉は、振り返って、剣を構えようとしたが――、
“遅かった”。
天劉はその衝撃をなんとか受け流そうとして剣をその前に突き出したが――それでも足りず、その衝撃をもろに食らってしまった。
「ぐはっ……!!」
「あはっ、あはは。肋骨が何本かいっちまいましたかァ!?」
そこにはさきほどまで戦っていた“影”はいなかった。
代わりにいたのは――“影”であって“影”でない『物体』。
「……お前は、何者だ?」
「……おれか!? いいだろォ。教えてやっよ」
「おれの名は“ディスアッパー”。とりあえず宣言してやるゥ」
“ディスアッパー”は、続けて言った。
「……お前らは俺の乖霊と倚力には叶わねェよ」
「はたして、どうかな?」
そう言って天劉は、“ディスアッパー”に向かって走った。
「オルダン!! 『実体化』……いや」
「もう一つの方を見せてやるか」
天劉は立ち止り、つぶやいた。
「……なに」
「どうやらおめーはしらねーようだが」
一息。
「乖霊ってのはこうも使えるんよ」
そう言って彼は叫んだ。
「アドヒジョン!!」
☨
その言葉が天劉の口から紡ぎだされた瞬間、彼と彼の乖霊は光に包まれた。
そしてそれが周りに広がる。
一歩遅れて、ゴッ!! とまるでハンマーで殴りつけられたような衝撃が“ディスアッパー”含め全員に命中する。
しばらくして。
すっかりきれいになってしまった城の王の間。
そこにあるは全ては把握できない。
煙が、全てを包み込んでいるからだ。
――唯一見えると言えば、岩のドーム、半球状の空間。だろうか。
「……ふう」
そこから、誰かが出てきた。
それは精葉だった。
「……助かった?」
精葉は、周りを見渡す。
あたりにはその惨状を表現するかのような、惨たらしいがれきの山。
「……天劉は?」
遅れて出てきた淕至が言った。
「さあ…… この煙の中探すのはとても……」
ポタリ。
床に、なにかのしずくが落ちた音が響いた。
「……何の音? 淕至?」
しかし淕至は答えない。
「淕至?」
彼女は淕至の体をゆする。
反応はない。
良く見ると体に何かが刺さっていた。
「……え?」
淕至は……すでに動かなくなっていた。
「……さすがの“神の乖霊”を持つ男でも、これは予想できなかっただろう?」
精葉の隣から声が聞こえた。
天劉と戦っていたはずの”ディスアッパー”の声が。
「淕至……淕至!?」
精葉は淕至の身体を揺さぶるが、それでも彼の反応は無かった。
「ハハハ……、無駄だよ無駄! そーんな簡単に生き返ると思ったか! 無駄なんだよ! ここで君たちの旅も、人生も終わりだよ。そもそも、乖倚人にまともな人生が送れるとは到底思えないけれどネェ!!」
「てめえ……」
ディスアッパーの背後には天劉が立っていた。
その姿は――とても人間のものではなかった。
人のものとは思えぬ姿に変化を遂げていた。
「……貴様……乖霊を最大までに強化させたか! どうやって!?」
ディスアッパーはそう言うが、しかし天劉はその言葉には答えない。
「俺はその言葉に答えないし、答える義務もない。だが……これだけは云える」
そして、天劉は、静かにそう言った。
「――死ね」
刹那、ディスアッパーの身体が霧散した。
†
「……まさか深部まで彼らに侵入されるとは、な」
王は小さく溜息を吐きながら、彼らに言った。
「王様、あなたはガリアダスト……或いは厳崎のことを何かご存知でしょうか?」
訊ねたのは天劉だった。
「そう言われてものう……。わしが知っているのは、『安らぎの揺り籠』を作って居ることくらいしか……いや、待てよ」
王は何かを思い出したかのように立ち上がると、後ろにある彼の寝室へと向かった。
少しして彼は出てくる。その手には蔵書があった。
「これは我が国に伝わる秘書だ。細かいことは言わん。これをもっていくがいい。きっと何か役立つはずだ」
そう言って王は天劉に蔵書を手渡す。蔵書の表紙には二匹の蛇が睨み合っていた。
「ありがとうございます」
頭を下げて、天劉たちは部屋を後にする。
「頼むぞ、子供たち。この世界を、元の姿に――」
その言葉は、彼らに聞こえることは無かった。
第四章 完
このあとのながれ
世界の真実を知って、じつは厳崎は前世界の人類ってことを知る
ほんとうは核で人類はほろびてたんだけど乖倚人だけはなんでか生き残っちゃった
厳崎は前世界の人類なのに生き残って力も手に入れた→核の副作用?
しかし核の世界に順応しすぎた乖倚人は前世界の人類が住める環境にすると死んじゃう→生きることが出来ない
最終的に天劉たちは人類が生き残る術を選び、自らの手で同類をころす
おわり
つづきはこれいじょうかきません。