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~ぼくらの交叉録~

彼と私の交叉録

作者: るるしぃ
掲載日:2015/03/22

「そっちに降りたぞ!」


階下ではバタバタと喧騒が続いている。

どうやら私を買った男達が検挙されているらしい。

私はまぁそうなるだろうな、と言う呆れと御愁傷様という哀れみしか感じられなかった。


しばらくして、この部屋の存在に気づいたのか――はたまた自白したのか―――1人の警官が入ってきた。


彼は私の姿を認め、愕然とした。恐らく二重の意味で驚愕しているのだろう。

なんせ隠し部屋にいたのは




"商品"としてボロボロのブラウスのみを纏った

      私

    なのだから



雨が窓ガラスをひどく打ち付ける。

あぁ、そういえばあの時も大雨だったっけ。


彼に続いて入ってきた2.3人の警官に連れられ私は部屋を出た。

すれ違い様、横目に見た彼の顔はひどく歪んでいた。


・・・ざまぁないな。

それでも、せめてあんたには知られたくなかったなぁ。


--------------------------------------------------


「お前、今までどうしてたんだよ。」

「………。」

「心配してたんだぞ。あいつら誰1人知らなかったし、仕事も辞めてたろ。」

…………………。

何故、こんなことをしているのだろう。

私は今、あの日真っ先に隠し部屋に来た警官――――――


――もとい友人だった男と面会していた。

しかも、事情聴取とかそんなんじゃなく個人的に聞きたいのだとか。

警官なんだし、ちょっとデータを調べれば早いだろうに。わざわざ聞こうとするとは、相変わらず律儀な奴だ。

そんな彼の話によると、私が失踪して2年と少しの間に色々あったらしい。

私たち共通の友人が結婚したとか、元々結婚してた子に第一子が誕生したとか、駆け出しデザイナーだった子を最近雑誌でも見かけるようになった、とか。

みんな、なんだかんだ元気でやってるらしい。

少し安心した。

けれど、どうやら音信不通となった私のことも気にかけてくれたらしくちょっぴり申し訳ない。

もう会えないにしろ、今度手紙を出そうかしら。



「……なぁ。頼むからなんか話してくれないか。」


彼はそう言って眉尻を下げた。


本当、この男は変わらない。

バカみたいにお人好しで、正義感が強くて、大きい。


---------------------------------------

私が彼と出会ったのは、先輩に新入部員に誘うよう言われた時だった。


「"たけなが"?」

「そう!同じ中学だったんだ。」

「あ、知ってる。あいつよね、ちょっとぽっちゃりした。」


そう、そいつ!

と友人達は楽しそうに話す。話によれば私やななみと同じクラスらしい。

しかし。私は疑問だった。

どうやって我が部に引き込むのだろう……と。


翌日。私はようやく彼、竹永悠哉を認識した。9月のことだった。

そして友人達は彼を囲い、部活に勧誘した。なんだか一種のカツアゲのようだった気がする。元から知り合いである志音や裕美を筆頭に咲、芙結花まで参加していた。

そんな光景に すごいなー と感心していると、彼は根負けしたのか 筆箱を人質に取られ部室に訪れた。しかも取られた筆箱は先輩のロッカーの中。………徹底的過ぎる。

まぁ結果として悪ノリした先輩方に押しきられ、彼は入部した。

当時の私は、先輩に便乗してかわいそう(笑)な少年だな としか思っていなかった。


それから1年して。私と彼はただの部員だった。いや、"友人"だろうか。

少なくとも私は彼と友人でありたいと思っていた。

後日聞いた この部に友達はいない という言葉に撃沈するほどには、立派な友人だと信じていたのだ。

先輩方が引退する頃には部活でもよく話す1人だったし、カラオケに誘われれば大抵一緒に行っていた。

…何気に、新しくスマホに機種変更したとき部員の中で一番に連絡先を登録してくれたのは業務用であっても嬉しかった。



これが、恋と呼べるほどに大きくなっていたのはいつからだろう。


更に半年経って、私は明らかに彼を特別視していた。

友人達には「さっぱりしていて羨ましい」と幾度か言われたが、決してそんなことはなかった。


実は(誰にも気づかれていないと信じたいが)それなりに嫉妬してた。それも中学からの仲だという他クラスの友人(女)や隣の席だった子、進級し彼と同じクラスになった咲にまで。

親しげな場面に遭遇しては落ち込み、カラオケに誘われれば浮き足だつ。

私にしては珍しく乙女らしい時期だった。


そんな自分の所作を、「親しい友人(男)が他にいないだけ」と理由をつけ、ずっとひた隠しにして友人関係を築きあげた私は筋金入りのバカだと思う。

けれど、前年受け取ってくれなかったバレンタインの友チョコを食べてくれるようになったのもこの下心満載の友人関係の賜物だろう。

お菓子を作る、と宣言して「よろしく!」と嬉しそうに返された日にはかなり本気で頑張った。

……少しだけ、恥ずかしかったけど。


この関係は卒業してからも続いた。

私は地元を出てとなりの県立大に進んだのに休みになって帰ればだいたい誘ってくれた。主に誘ってくれるのは咲だったが、メンバーにはたいてい彼もいたのだ。

私にとってそれは願ったり叶ったりで、目一杯めかし込んで出陣した。

その度に、色気か せめて可愛い気があれば……と考えていたのはここだけの秘密。


そういえば、夏には彼含め高校時代の友人たちと旅行にも行った。今でもそのときの写真は大切にしまってある。

あ、そういえば帰りの席で寝顔見られたのはあのときだっけ。(絶対耳は真っ赤だっただろうな……)


けれども、私と彼は親密な関係になることはなかった。

お互い、部屋には何度かお邪魔したが ただそれだけだ。

ずっと期待半分、諦め半分の"友人"。その立ち位置に甘んじてきた。

どうせ私からその先を望んでも、彼は応えてくれない。だから、せめて共に過ごす時間が欲しくて。(幼なじみに話したら、意気地無しといわれた。)


やがて、進級し就職活動も重なり彼と疎遠になっていった。

少し寂しくなったが、所詮あるべき生活に戻っただけ。

流石に彼女ができたらしいと聞いたときは落ち込んだけれど。(連絡もくれないとか今でも許せん。)

でもその頃、私にも彼氏ができたのでその分彼氏と過ごすようになった。


それから転機が訪れたのは、2度目の同窓会。私は就職したばかりなこともあってスーツでの参加だった。

懐かしい面々に和んでいると、彼が会場に飛び込んできたのだ。

たしかに今回の会は彼と同じクラスだった1年時のもので、参加資格もある。

しかし彼の性格上、参加しないだろうとたかをくくっていたので面食らってしまった。

少しして、私を見つけた彼はこちらまで来て「久しぶり」と笑いながら私の向かいに腰をおろした。

この日、彼は警官になったと話した。

聞けば、白バイに憧れていたらしい。驚きはしたが、別段可笑しなことではなかったため「へぇ」と聞き流していた。

それからも話は続き、その日は彼に送ってもらった。

気づけばまた彼と連絡を取り合うようになっていた。




彼との関係が復活して、しばらくたったある週末。

彼と呑みに行くことになり、定時で上がったのだ。

上機嫌で電車に乗ったところでメールが来た。彼からだった。

「ごめん。残業になった。」

それを見て、

「了解。じゃあ呑みに行くのは次のオフにしようか。

仕事ガンバレ!(^-^)」

と送った。

お互いちょくちょくあることだ。こればっかりは社会人なのだから仕方ない。

そして、手持ち無沙汰になった私はその足で彼氏の部屋に向かった。

元々呑む予定だった店は今の彼氏宅の近くにあり、帰りに泊まって行くつもりだったので何も問題ない。

それがあんなことに繋がるなんて、当時は考えもしなかった。



週明け。私は普段通りに出社した。

…が、周りの様子がおかしい。

やけに視線が多く、ヒソヒソ声がフロアに響く。彼女らと目が合うと、さっと反らされた。

首をかしげながらも仕事に入ると、あまり仲のよろしくない同期からメール。

内容に、思わずため息が出た。

「話がしたいから、お昼一緒にしない?」なんて。これ、明らかに今日のことと関係あるじゃない。

嫌な予感しかないけれど、断ったらどうなるか分からない(応じても似たようなもんだけど)ので、とりあえず了承しておいた。


そして迎えたお昼休み。まぁ、案の定 といいますか。見せられた画面に写るのは、彼と同期の子のツーショット写真。

さらには私と彼氏の写真と、いつのか分からない程昔の私と彼のツーショット写真。


話を聞けば、彼とは合コンで出会ったのだとか。

別に昔も今も彼とは恋人なんていう間柄ではないのだから「そうですか。」としか返しようがない。

それが気にくわなかったのか、彼女は「余裕ぶっこいてんじゃないわよ、このアバズレ!」と罵って行った。

……なんでそんな話になってるのよ。

そんな私を置いて、事態はあっという間に進んで行く。

数日後、私は社内で彼女の彼を寝とり二股をかけ、挙げ句に貢がせていると噂されていることを知った。

どうやら、彼女に嵌められたらしい。

後輩くん(3つ下の部下)が教えてくれなかったら、確実に知ることのなかった情報だ。

けれども噂が大きすぎて私にはどうしようもできなかった。


ついてないな、と嫌がらせに耐えること数ヵ月。

私の周りは少しずつ変わっていった。

上司から任される仕事が減った。

慕ってくれていた後輩達もどうすべきなのか戸惑っている。

彼氏にはこの件がバレて喧嘩し、結局別れた。

そんな生活にだいぶ参ってきた私は、丁度オフだという幼なじみ二人に誘われて居酒屋に行った。

久しぶりに呑んで、色々愚痴った気がする。

少し気分がすっきりしたところで、解散した。


それから歩いて駅まで行ったが、終電を降りてからの記憶はない。

突然後ろから抱きつかれ、何かを口元あたりに押し付けられた感覚だけが鮮明に残っている。

二人に会って気が弛んだんだろう。

一瞬で、気が遠くなった。



目が覚めると、見知らぬ部屋のベッドだった。目の前には3人の男達。

正直、二人に会えて気分が上がっていた分かなりショックだった。

回らない頭で唯一聞き取れたのは

私が売られたことと、会社には辞表を出して辞めたことになっていること。

会社には迷惑がかからなさそうで、感謝した。

だって辞めたのだから、仕事が滞ってますーなんてことはないでしょ。私がしっかり育てた後輩くんもいるんだし。


そうこうしている内に、男達は近づいてきた。

ここは密室で、私はベッドの上。


ーどうなるのか、知らない私ではない。


咄嗟に拒絶し、身を捩らせる。けれども、相手は屈強な男な訳で。

私の小さな抵抗は、何の意味も果たさなかった。



あはは。・・・もう、いいや。



完全に目の前が真っ暗になったあの夜。

私の心を映すかのように、雨はひどく窓ガラスを打ち付けていた。




あれから2年。

私は隠し部屋の簡素なベッドで暮らしていた。

ここに訪れるのは、あの男達と客だけ。

本当世の中腐ってる。

売る方も売る方だが、買う方も買う方だ。

いづれしょっぴかれるだろうことは一目瞭然。時がきたら、おそらく私も捕まるだろう。

あーあ。私も随分堕ちたなぁ。

……刑務所暮らしもいいかも、なんて。

確かに、嫌でもにおいが染み付いたあの部屋よりかよっぽど快適ではあるけどさ。


そのときだったな。ふと、彼を思い出したのは。

今どうしているのだろう。憧れの白バイで町を走っているのかな。それとも刑事になってたりして。

えぇ、自分で言っておいてだけどそんなこともあるのか。こんな情けない自分、彼に見られたくないなぁ。



そんなことを考えて数日。

あれがフラグだったのか、この隠し部屋に真っ先に訪れた警官は彼だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


面会が終わり、あてがわれた自分の部屋に帰ってきた。

私は最後まで喋らなかった。

だって、口を開けば何が出るかわからないから。

彼はまた来ると言っていたけれど、会いたくない。

私にはこのままの方がいいに決まってる。


なんとなく、ベッドにごろんと転がった。

変わらない景色に視界がぼやける。


あぁ。空が青いや。


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