視線と契約
誰かの視線、何かの光。
いったいそれは、何を指すのか?
それは、学校からの帰り道であった。
「紅李って将来どんなことしたいん?」
突然の雪歩からの質問に少し戸惑ったが、迷わず、笑顔で答えた。
「..人助け。四方八方飛び回って、困ってる人を助けたいなって。」
「そっか~..つかその夢、小学校の頃から本当ブレ無さすぎだよね」
そういって笑う佐藤雪歩を後にし、私は、いつもの店へと足を運んだ。
「じゃあ、私今からバイトだから、気をつけて帰ってね。ここ最近この地域も物騒だから、防犯ブザーもちゃんと使ってよね!」
「はいはい~分かってますって!てか高校生にもなって防犯ブザーってなんじゃいな!本当紅李は心配症だよね」
「だ、だって!雪歩になんかあったら、し、心配だし、嫌...じゃん..?」
ちょっと照れたような顔をして、紅李は小声で言った。そういった直後に雪歩は紅李を思いっきり抱きしめて
「紅李ーーー!やっぱり私の親友!好き!好き好き!大好きー!あいらぶ紅李ー!」
「ちょ、ちょっと!こんな人通りの多いところでそんなこと言わないでいいから!」
さっきより何倍も赤くなった紅李の顔が夕日に照らされてもっと赤く見える。そんな中で、どこからか二人を見つめる視線があることを。そして、およそ15分後に紅李の運命が360度まったく変わることを、この時点で知る由もなかった。
カラン カラ〜ン
「こんにちは〜」
そう言って中に入ったのは、"rateno"という喫茶店だった。
中学校の頃まではバイトは禁止だったため、生徒会やボランティアを通して人の役に立ちたいと思っていた紅李だが、高校に入ってからはもっと役に立ちたいといい、すぐにこの喫茶でバイトをし始めた。
一度も休まず15分前に来る紅李の張り切りさは、誰が見てもわかるくらい熱いものだった...。
「マスター!今日も15分前行動、完了です!」
びしっ!と敬礼するニコニコ顔の紅李をみて、マスターも思わず笑顔になる。
「流石だね!本当紅李ちゃんは凄いなあ!」
そう言いながらも珈琲を淹れる手を休めないマスターだったが、ふとあることを思い出し、紅李に告げた。
「早々、紅李ちゃん。これ、さっきお客さんから渡されてね...」
紅李は店長の持っている紙を手に取り、なになに..と呟きながら見た。
「至急!神..家業募集?なんですかこれ?神って事は神社のお祭りを手伝ったりする仕事か何かですか?」
戸惑う紅李を見て、マスターは
「私も良く分からないんだが、笑顔で人助けが好きな人を募集しているそうで、紅李ちゃんにどうかなーって」
紙を指さしながら言うマスターに、紅李は笑顔で答えた。
「はい!勿論です!あっちの方に時間を合わせてもらって、掛け持ちバイト頑張ってみます!」
「あ!いや..そういう意味じゃなくて、私事だが、珈琲の選手権大会みたいのがあって、それの審査員を頼まれたため、1ヶ月間ブラジルに行かなきゃいけないんだよ。だから店を開ける間ここでバイトしたらどうかなと」
そう言われて紅李は少し考えてから、大きく頷いた。
「わかりました!いつこのバイト先に行けばいいですかね?」
「うーん...そういえばさっきの方、すごい急いでたから、今すぐ行ってあげたらどうだい?」
「今すぐですか?!けど..喫茶の仕事は...」
少し困った様子だった紅李の頭をポンポンと撫で、ニッコリと笑って言った。
「ここは大丈夫だよ、行ってきなさい。」
そう言われて紅李いつもの笑顔を見せながら、マスターに行ってきますと告げ、紙に書いてある目的地まで走っていった。
5分くらい走ったところに、大きな神社があった。
「ここ..?だよね?」
マスターに渡された紙と神社を交互に見、合っているか確認してから、ゆっくりと中へ足を運んだ。
「すみませーん..家業手伝いのチラシを見て来たんですが..」
しかし、返事はない。他にもあたりを見回したが、人影は一つも見当たらない。
「やっぱ違ったのかな...」
紅李は少しガッカリして、他をあたろうとした瞬間、ふと何か視線を感じた。
参拝する場から感じる視線は、どこか惹きつけられるモノがあり、自然と身体がそちらの方向へ動いてしまう。
「参拝...してかないとね」
なぜかは分からない。していかないと、良くないことが起こるような気がしたし、誰かがしていけと私を操っている気もした。
そう思いながら、手を合わせた瞬間、事は起こった。
突然、辺り一面が光に包まれ、
その瞬間、紅李は意識を失った。