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朽ちて

「さぁ、これが最後です。」



青年は娘とさらにもう一歩距離を置き、相変わらずの張り付いた微笑みで言葉を紡ぎます。



「最後…?」


「はい。見合いのお話はお受け下さい。」


「な、何故その事を!?」



先程の老人。

実は娘に見合いの話しを持ってきていたのです。




―…じきに戦争は終わります。そうすれば我が主は国の中心で政治を致しますでしょう。

その前に、お相手を見つけておきたいと。





「お相手の方は優しく誠実な方です。」


「あ、貴方だって、」



"優しく誠実な人間です。"



その言葉は空を切り、

青年は顔を歪めます。



「僕は貴方が思っているような人間ではありません。」



歪んだ顔のまま続けます。



娘の涙腺は決壊直前です。

ずっとずっと、心の中に止めておいた言葉。

もし口にしてしまえば、消えてしまう気がしていました。


けれど、今口にしなければ、消えてしまう。

そんな気がしました。



「それでも、」



消えてしまうその前に、



「それでも私は…」



伝えなければ。







「貴方の事が好きなのです。」



決壊してしまっても、

枯れてしまっても、



消えるよりましなのですから。



ヒューっと、冷たい風がひと吹き。

いつの間にかいつもの時間になっていました。



青年は手の平で目を覆い、下を向いてしまいました。


一気に不安になる娘。





「僕は…」





「確かな言葉は紡げないのです。」



裏を返せば、

"だから汲み取って下さい。"




一歩、二歩と青年が近づいてきます…




「……ん、」




不意の口づけは、それはそれは悲しい、けれど優しいものでした。

しかし次に紡がれる言葉は…





「それじゃあ、死んでみますか。」


ふと思い出されるのはもみの木の逸話…



―…死を選びました。

互いが互いのままである内に。




枯れた薔薇は

再び花を咲かせる事はないのです。



あとは消えて灰になるのみ。


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