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五分咲き~前編

それからというもの、娘と青年は約束通り毎日毎日、丘の上のもみの木の下で他愛のない話しをしました。



―…ハンカチ、ありがとうございます。



から始まり、



二人語らう事が日常と化したある日。



「お母様の具合はどうですか?」


「はい、おかげさまで元気になって来ています。」



そう言う娘は無理矢理笑顔の花を咲かせているようでしたので、それを見た青年は顔を曇らせ、



「顔色があまり良くありません。ご無理をなさっているのでは?」



そっと優しく頬をさする温かな手は、娘の涙を誘います。



「ご、めんなさっ」


「よければ話してください。ためてしまうのは酷ですよ。」



娘はいつしかのように俯きながら、躊躇うように語ります。



「実は…」



宿泊まりの貴方は知らないと思いますが、

薬に加え最近では食糧までも不足の事態となっているのです。

けれど私はどうしても、お母様にちゃんと食べて頂きたくて…



「その先は、いいです。」



青年はとっさに娘の語りを止めます。



「え?」



「何も知らずに、申し訳ないです。」



深々と頭を下げる青年。



「いえ、貴方が頭を下げる事では…」


「この街に戦は似合わない。」



いつも微笑んでいる青年には珍しい、曇った表情を娘は目にしました。



「はい…でも私は逃げません。これは運命なのです。乗り切ればそれ相応のものが待っているはずなのですから。」



娘は青年に向かって話すのではなく、半ば自分に言い聞かせるように言いました。

しかし青年は、



「逃げ…そう、ですよね。」



余りに儚い表情に、娘はかける言葉がありませんでした。




「あ、明るい話しをしましょう!」



青年の儚い微笑みの後の沈黙に耐えきれられず、娘はとっさにそんな事を口にしました。

そんな必死の娘の姿に、青年は思わず口を押さえながら笑います。



「ハハッ、そうですね。暗くさせてしまって申し訳ないです。」



青年は別に無愛想というわけではありません。むしろ怖いくらい常に、その顔には微笑みが張り付いています。



その、そんな、青年が、



…破顔したのです。



「あ、いえ。」



娘は思わず見入ってしまいました。



気を取り直し、

―…じゃあお話を、



と二人が顔を上げお互い向き合います。

別に何もおかしな点などない、普通の、一連の動作です。が。



「あ、」



二人視線が絡み合うと、どちらかとも分からぬその声を合図にバッと視線をそらしてしまったのです。



顔が、紅い…



けれど、それはまるで朝露の如き一瞬の出来事でしたので、すぐに青年が、



「お話、聞かせてください。」



と切り返しました。


娘もすぐに普段の調子に戻り、自ら称すところの明るい話しを始めました。





―…今ここに植えられている"もみの木"、

実は逸話があるのです。







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