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灰~前編
「し、死ぬ?」
ふと思い出されるは、もみの木の逸話。
少し間を空けて、青年は独り言のように語りだします。
「言ったでしょう?僕は彼が羨ましいと…。けれど、けれど僕には貴女を殺せる程の勇気もありません。臆病者です。貴女には幸せになる権利があります。僕なんかとではその権利はないのと同じ。だから…」
「わ、私は幸せです!」
「自分一人が味わう幸せは、真の幸せではありません。お母様は?亡きお父様は?」
娘は言い返せません。
「ここで、互いの"想い"を殺しましょう。」
「そうすれば"想い"は永久に。思い残す事は何もありません。」
それはまるで遺言のようで…