種まき
以前に魔法のiらんど様で公開していた作品の改稿verです。
わたくしとiらんど様での清原は同一人物となります。悪しからず。
ここは遠い遠い、世界の外れの小さな国の
そのまた外れにある田舎街。
ある時そこに、それはそれは可愛らしい一人の娘がおりました。
娘が笑えば花が咲き、娘が憂えば空が曇る。その可憐な姿に誰もが癒されるのです。
そんな娘の住むこの田舎街では、長い間平和な時がゆったりと流れておりました。
しかし…
「おじいさん、いつもの薬をください。」
娘は愛想よく尋ねます。
しかし店主は、
「お嬢ちゃん悪いね、品切れなんだ。」
困った顔で、謝ります。
「そ、そうなのですか…けれど母は体が悪いのです。薬がなくては…」
「本当にごめんよ。でも仕方がないんだ。戦争で薬は兵隊さん方に優先しなくちゃならないから。」
「そう、だったのですか…わがままを言ってしまってごめんなさい。」
外れの国の外れの田舎にも、
戦争の影が忍び寄っていました。
少しでも母の気が紛れるよう、娘は代わりに、ハチミツ漬けの珍しい木の実を買って行きました。
家に帰るなり、寝室にいる母の元へと駆け寄ります。
「お母様、ただいま戻りました…はい、お薬。」
「ありがと、ゴホッ」
「お母様!?」
母親の弱々しい微笑みは、娘にとっては酷なものです。
母親に早く元気になってもらいたくて、少しでも楽になってもらいたくて、娘は来る日も来る日も、薬屋に行きますが…
「ごめんよ。」
日に日に悪化する戦況に、薬不足は付き物だったのです。
このご時世、悪化の一途を辿る母親の容態、無力な自分。
いろいろな事に嘆きながら、丘の上のもみの木の下で、娘は一人涙を流します。
人前で負の感情をあらわにはできないのです…その容姿故に。