ひなたの日記
12月24日(月)雪
この街に来ると、ほんの少しの間だけわたしたちのサーカスにいた、小さなキツネの事を思い出します。
もうずっとずっと昔の事で、名前もすっかり忘れてしまったけれど、可愛くて人懐っこいキツネだったのを覚えています。
そのキツネは、この街に来たらどこかへ消えてしまいました。足跡ひとつ残さずに。
ちょうど稀に見る大雪の日で、子ギツネだからと檻にもいれていなかったので、知らない間にどこかへ行ってしまったのでしょう。
悲しくて悲しくて、泣き明かしました。どうしてちゃんと見張っていなかったのかと後悔しました。
子ギツネに最も構っていたラティも悲しそうでした。もうラティもいなくなってしまったけど、思い返してみると、彼女もわたしと同じように後悔していたのかもしれません。
こんな雪の日には、感傷的になってしまうものですね。
そういえば、街で面白い噂を聞きました。
毎年雪の日になると、銀ギツネが出るそうです。大層美しい毛並みの銀ギツネで、街では雪の精ではないかと噂されているのだそうです。
そんな話を聞いたから、こんなに昔の子ギツネの事を思い出すのかもしれませんね。
もちろん、あの時のキツネだなんて思っていません。だってあのキツネは普通のキツネと同じ、茶色の毛並みだったし、それにどんなに長生きのキツネだって、もう生きているはずもありません。
そうそう、雪の日に出る銀ギツネですけど、そのキツネには名前があるんだそうです。
『冬ギツネ』と言うんだそうですよ。