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子ギツネ

「ここからずっとずっと北の国では、「雪」という氷の花が降るのだそうよ」

 おかあさんギツネが優しい声で、いつもの物語をボクたちに語って聞かせてくれました。


「おかあさんは「雪」を見た事あるの?」

 ボクが聞くと、おかあさんギツネは笑いながら首を振りました。


「いいえ、坊や。私は本物の「雪」を見た事はないわ。この話はね、ずっとずっと昔に、おとうさんギツネの一族がずっとずっと遠い北の国から、暖かい土地と豊かな食べ物を求めて南に来た時から語り継がれてきた話なのよ」


 おとうさんギツネは、ボクや、ボクの兄弟たちがまだ小さかった時にどこか遠い所に行ってしまったのだそうです。


「ボクもそのずっとずっと遠い北の国にいつか行ける?」

「ボクも!」

「アタシも!」

 ボクの兄弟たちも即座に声を上げました。


 けれど、おかあさんギツネはやっぱり笑ったまま、ゆっくりと首を振ります。

「いいえ、いいえ、坊やたち。そんな馬鹿な事を考えるのはおよしなさい。「雪」はそれは綺麗なのだそうだけれど、「雪」に掴まって眠ってしまうと起きられなくなってしまうのよ。それにそんな遠い国へなんてとても行けないわ」


 おかあさんギツネはボクたちの体を舌で舐めてくれながら、続けました。

「おとうさんギツネの一族だって、長い時間をかけてこの南の土地に来たんですからね」


 そう聞いて、ボクは残念な気持ちになりました。

 だって、「雪」の話はボクが大好きな話だったから。


 その時、鼻に焦げ臭いにおいがちらつきました。

 おかあさんギツネもすぐに気付いたようで、ピンと耳を張って辺りの音を聞き取り始めました。


 おかあさんギツネがこうし始めたら、ボクたちはじっと固まって、物音を立てないでいなさいと教えられていました。


 だからボクたちは、その通りに、じっと固まって、物音を立てないでいました。



 タ―――――ン、という高い音がして、おかあさんギツネが地面に伏せた時も、その通りに、じっと固まって、物音を立てないでいました。

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