明日の絵Ⅱ
次の日、一通り授業が終わった後、俺はさっそく彼に尋ねた。『昨日、林に入ったろ?』と学校で配布されたプリントの裏に書いて、彼に見せた。彼はあっさりと肯定した。
次に、『あの家の落書きは君だろ?』と書いた。これも彼は肯定した。やけに素直で、むしろ不気味だ。
それ以外に何を訊けばいいのだろう、と悩んでいる間に、彼が俺のペンとプリントを奪った。そして彼がそこに描いたものは、またしても絵だった。
学校の絵だった。しかも、やはり何かが足らない。俺はすぐに足らないものがわかった。
体育館だ。
そして、相変わらず無表情な彼は、その絵の下に書き足した。『今日の絵』
俺は彼の目を見た。今日、消えるのか、体育館が。
俺の気持ちが伝わったのか、彼は深く頷いた。
『どうしたら止めれる?』俺は彼からプリントを奪って書き散らした。
彼にプリントを渡すと、ゆっくり文字を書き始めた。そして、それを俺に返す。俺は目を血走らせてそれに書かれた文を読んだ。『寝続ければいいんだけど、そういうわけにもいかないだろ? 寝たら、起きるだろ』
目覚めたらどうなるんだ。何が目覚めるっていうんだ。そう書こうとしたら、彼は再び俺のプリントを奪った。気持ちが伝わったのだ。
『夢が、覚めるんだ』一回俺に見せ、再び何かを書き始める。『神様が、目覚める』
やはり、わけがわからない。
すると突然、外が光った。懐中電灯を直接目に向けられたような感覚に襲われるほど、激しい光だ。
俺が慌てて外を見たときには、すでに、そこに体育館の姿はなかった。
裏を向くと、彼もどこかへ消えている。まさか、と不安がじりじりと溢れてくる。まさか、彼も消えたのか?
もう一度外に目を向けると、彼の姿はいとも簡単に発見できた。何事もないかのように、校門に立っていた。片手に、ペンキを持って。彼は、俺を見ていた。いつの間にそんなところに移動した、と焦ったが、声が出ないので訊くことなどできず、ただ彼を見下ろすしかなかった。
すると彼は周辺の地面に、ペンキで何かを書き始めた。
まず人の絵を描いた。彼はそれを指差した後、僕を見上げて、そしてそのまま僕を指差した。これは君だ、というわけだ。
次に描かれたのが、校門。学校の外から見た校門だった。そして彼は、その下に大きな文字でこう書いた。『明日の絵』
嘘だろ? と俺は強く思ったが、彼に伝わったかどうかは分からない。彼は踵を返すと、とっとと帰ってしまった。とっとと、と言っても、やはりのんびりとだ。
俺はといえば、彼の描いた絵から目を離せずにいた。手足などが小刻みに揺れ、全身の鳥肌が立っている。校門に立つ、僕と称された人の絵の周りには、何も無かったからだ。
どうやら明日、学校が消えるらしい。