年賀状
変な夢を見た、と思ったら、それが夢だった。つまり、夢を見る夢を見た、ということ。そういうことはときどきあるが、今日のは少し違った。知らない誰かが、俺の夢の中で夢を見たのだ。その誰かは、慌てて目を覚ますと、周囲を確認して、何かを呟いた。そこで、俺の目が覚めた。
今日から、新たな一年が始まった。とはいえ何か大きな変化があるかと言えばそうでもない。ただ年が変った、というだけのこと。
年賀状というものが二通届いた。年の始めに、安否を知らせる手紙なのだと、彼から聞いた。つまり送り主は、彼だ。二通とも、彼だ。
一通目には、大きな文字で『もうすぐ世界が消えるよ』と書いてある。新年早々、あまり笑える冗談じゃない。
二通目に目を通したところで、俺はぎょっとした。小さくて丁寧な字で書かれていた文章は、俺を怖がらせる材料として不足のないものだった。『目を覚ます夢を見たんだ。怖い。大変だ。このままでは、夢が覚めてしまう』
それは、俺がまさに今朝見た夢とどこか似ていて、無意識に身震いをした。
年賀状ってこんなに縁起の悪いものなのか。そう考えると、来年はいらないな、と思う。
そこで、何かが心にひっかかった。それが今手に持っている二通の手紙によるものだと、すぐに分かった。『もうすぐ世界が消えるよ』
来年の年明けは、俺には来るのだろうか。