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強襲

 この日の夜、恐ろしいことが起こった。

再び家の前にフード男が現れたのだ。

ついに俺を殺しに来たのか、と俺は身震いを抑えることができなかった。

今日のフード男は以前とは違った。なんと呼び鈴を押したのだ。高い音が家の中に響く。母は面倒くさそうにして出なかった。すると妹が大きな溜め息をつきながら玄関へと向かった。俺は来客の前に出ることは許されていない。

俺は急いで妹を止めた。『行っちゃ駄目だ』と書いた紙を見せた。しかし、妹はこうべを振って歩き出してしまう。父の舌打ちが聞こえて、俺はしぶしぶ諦めた。

そこで、妙な不安感に包まれた。なんだか、やはり妹に行かせてはいけない気がした。

『彼以外にも殺さなければいけねえ邪魔者がいるかもしれねえ』

 どくり、と頭の中に熱い液が滴った気がした。

俺は玄関まで走り、急いで妹の手を取った。時は遅く、ドアは開いていて、にこりと笑ったフード男がナイフを振りかざして立っていた。

風を切る音が鳴り、赤い血が飛んだ。危機一髪、妹は腕を軽く切られただけで済んだ。しかし切り傷は深く、どくどくと血が流れている。妹は泣くことなく、冷静なままそっと立ち上がり、身を引いた。

スプレー男は家の壁に、スプレーで字を書いた。『邪魔すんじゃねえ』

俺は首を振り、油断している様子だったフード男に向かって思い切り殴りを入れた。フード男は一瞬反応を見せたが、ナイフを構えることなく素直に頬に拳を当てられた。そしてゆっくりと起き上がると、舌打ちをかましてどこかへ去って行った。

妹は真っ赤に染まった腕を抱えるようにして座り込んでいた。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、そんな感情に浸っている場合ではない。近くに置いてあった救急ボックスを発見し、包帯を取り出して、妹の腕に巻きつけた。

そこで妹が動きを見せた。切られた右腕をゆっくり動かしている。『ドジった』なんと、自らの血でそう床に書いたのだ。

すると妹はかなり無理のある笑顔を浮かべ、さらにぴくぴくと震える腕を動かした。『わたし上行くね。母たちに見つかるから、片付けて』

俺は居間で静かにしている両親を気にしつつ、妹を支えながら部屋へ連れて行った。

部屋に入ると、さすがは天性のドジな妹で、手慣れた手つきで俺が下手くそに巻いた包帯を直している。俺は紙に『ごめん、俺のせいで。あれは俺の客なんだ』と書いた。妹は少しだけ首をかしげ、そして何かを思い出したかのように口を開いた。そして、俺のほうをじっと向いて、早く片付けて来て、と目で促してきた。

下駄箱に置いてあった雑巾を濡らし、俺は血の付いた場所を万遍なく拭き取った。

一つだけ、不思議なことに気が付いた。さっき妹が書いて見せてくれた『ドジった』という文字が無かったのだ。もしかしたら、他の血と同化して消えてしまったのかもしれない。

俺は綺麗に血を拭きとり、両親に発見されないように雑巾を水道で洗った。

妹の部屋に戻ると、妹の腕はエビフライのようになっていた。俺が紙に安否を確認する旨のことを書いて見せると、妹は親指を立てて俺に見せた。大丈夫、という意味。その証拠に、包帯に血が滲んでいる様子はなかった。傷がそんなに簡単に塞がることはないのだろうが、俺は妙な安心を覚えた。

妹が紙に『おやすみ』と書いて、横になってしまった。俺は仕方なく部屋を後にした。

その夜は寝れなかった。彼に対するもやもやした感情と、妹が誤ってナイフで切られたことが、俺の脳内を支配していた。

気休めになるかと、窓から夜空を眺めてみた。分かってはいたけど、星なんて見えやしなかった。もしかしたら、そんなものは始めから無かったのかもしれないな。ふとそんなことを考えた。この世界は神様の夢の中なのだ。

寝る直前に、久しぶりに声が聞こえた。

大丈夫かな。そう言った後、どうしよう、とも言った。そして最後に、決断の日だ、と聞こえた。時計は十二時をまわっていたが、俺は気付かなかった。

そして、やはり頭痛が起きた。俺はそれを押し殺すように枕で頭を包み、無理矢理寝てやろうとした。


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