その60 「出口」
ノアは結構すきです。
ランチは終わった。
終わったことにした。
悠馬の胃は終わっていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
店を出る。
外の空気は涼しい。
平和だ。
平和であってほしい。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「兄さん、今日は楽しかったね!」
「楽しくない」
「レオンさん優しかった!」
「黙れ」
ルイスが淡々と続ける。
「父上は黙れと言われています」
「黙ってるよ!」
「黙っていません」
爆弾は爆弾だ。
そして。
店の扉が閉まった瞬間。
世界が止まった。
そこに、凛がいた。
仁王立ちだった。
腕を組んでいる。
逃げ道がない。
空が澄んでいるのに圧が重い。
「ノア?」
優しい声。
優しいが、冷たい。
「観光、楽しかった?」
「はい!」
返事が早い。
早すぎる。
ノアは背筋を伸ばした。
伯爵の姿勢。
37歳の姿勢。
遅い。
遅すぎる。
「凛、これは偶然で」
「偶然?」
「偶然だよ!」
ルイスが静かに言う。
「偶然ではありません」
「黙れ!」
凛は微笑んだ。
微笑みが一番怖い。
「息だけしていなさいと言ったわね」
「はい!」
「していた?」
「はい!」
「嘘ね」
即死。
凛は一歩近づいた。
影が落ちる。
「回収する」
「待って!兄さんが!」
「兄さんの胃が死ぬわ」
「はい!」
返事をするな。
凛はノアの襟を掴んだ。
慣れた手つき。
爆弾処理班。
「行くわよ」
「兄さん!」
「助けてほしいのは僕だ!」
悠馬が叫んだ。
胃を押さえながら。
凛は悠馬にだけ優しく言った。
「大丈夫よ」
一拍。
「爆弾は持ち帰る」
「お願いします」
悠馬は即答だった。
ーーーーーーーーーーーーーー
ノアは引きずられながら叫ぶ。
「兄さん!僕は兄さんを幸せに!」
「頼んでない!」
「頼んでないけどやる!」
「やるな!」
ーーーーーーーーーーーーーー
少し離れたところで。
店の窓際。
レオンがその光景を静かに眺めていた。
伯爵が回収される。
総ボスが胃を押さえる。
小さな子供が淡々としている。
”妙に整った家族の形”
形だけは。
レオンは小さく息を吐いた。
「……佐伯氏は」
独り言のように呟く。
「家族も面白いな」
誰に向けた言葉でもない。
観察者の感想だった。
彼は背を向ける。
仕事の顔に戻る。
去り際に、もう一度だけ振り返った。
悠馬とルイス。
似すぎた輪郭。
噂は噂だ。
しかし興味は消えない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
こうして爆弾は回収された。
出口で。
仁王立ちの凛が全てを終わらせた。
そして。
観察者は静かに去った。
世界は早い。
悠馬は遅い。
胃だけが正直だった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
感想・フォロー等とても励みになります!




