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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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幕間 「サロンは完成させる」

噂なんてそんなもんさ・・・

噂というものは。

誰かが言い出した瞬間には、まだ形をしていない。


ただの煙だ。


しかし。


英国のサロンに持ち込まれた途端、

それは芸術になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ロンドン。

昼下がり。


柔らかな陽射しが差し込む応接間で、

紅茶と菓子と退屈が並んでいた。


そこに。


「――聞きました?」


最初の一言が落ちる。

砂糖より甘く。

毒より速く。


年配の貴婦人が扇子を揺らした。


「ドイツでね、佐伯様にそっくりな坊やがいたそうですの」


「まあ」


若い令嬢が目を丸くする。


「佐伯様って、あの…?」


「ええ。総ボスの」


「総ボスって言い方はやめなさい」


別の婦人が笑う。

笑いながら興味は隠さない。


そこへ若い貴族青年が身を乗り出した。


「僕の母がその場にいたんですよ」


”母”


つまり一次情報。

噂の格が上がる。


「伯爵が“息子です”と紹介していたそうです」


「まあまあ」


扇子が一斉に開く。

風が立つ。


噂が動く。


令嬢のひとりが小声で言った。


「でも…伯爵夫妻って」


一拍。


「プラトニック…ですわよね?」


沈黙。


そこだ。


事実の隙間。

想像が入る。


貴婦人がにこやかに頷いた。


「ええ。契約結婚だとか」


「では、なぜ子供が?」


「養子?」


「でもあの坊や、佐伯様に似すぎているとか…」


令嬢が口元を押さえる。


「まあ…それは…」


誰も言わない。

言わないが、皆同じ方向を見ている。


若い青年が嬉しそうに続けた。


「伯爵は佐伯様を“兄さん”と呼ぶでしょう?」


「ええ」


「血のつながらない兄を溺愛していると有名で」


「まあ」


「だから…」


青年は言いかけて止まった。

止まった瞬間、


周囲が勝手に完成させる。


貴婦人が扇子をぱちりと閉じた。


「つまりこういうことですわ」


一拍。


「佐伯氏には隠し子がいる」


「まあ!」


「表に出せない」


「まあまあ!」


「だから伯爵家が引き取った」


「養子に…!」


「しかも伯爵夫妻はプラトニックだから、完璧な隠れ蓑」


筋が通ってしまう。


”最悪だ”


令嬢がきらきらした目で囁く。


「でも…なぜ伯爵がそこまで?」


貴婦人たちは微笑んだ。

優雅に。

残酷に。


「愛ですわ」


「愛…」


「血のつながらない兄を愛して(笑)」


「その兄の妹と偽装結婚し」


「愛する兄の隠し子を引き取り」


「溺愛している」


噂は完成した。

誰も止めない。

止められない。


サロンは物語を作る場所だから。


誰かがため息をつく。


「ロマンですわね」


「美しい献身ですわ」


「さすが英国」


何一つ美しくない。


ーーーーーーーーーーー


その頃。

当の佐伯悠馬は。


オフィスで胃薬を握っていた。


世界は早い。

悠馬は遅い。


噂だけが完璧だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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