幕間 「間違い」
※飲酒の勢いで人生が終わる回です
それは、夫婦として招待されたイベントだった。
形式上。
あくまで形式上。
ノアと蘭は並んで会場に立ち、完璧に微笑み、完璧に距離を保っていた。
普段なら、それで終わる。
終わるはずだった。
その夜は同世代が多かった。
貴族社会の“次世代”が集まる、妙に気楽な空気。
誰もが肩の力を抜き、誰もが少し浮かれていた。
「ノア卿、固いな!」
「蘭さん、もっと飲んで!」
「二人とも新婚とかわらないだろ!」
『新婚。』
その単語だけで蘭の眉が一ミリ動いた。
ノアは笑った。
笑ってしまった。
珍しいことだった。
蘭も、珍しく杯を受けた。
一杯。
二杯。
会話が増える。
笑い声が混じる。
夜が深くなる。
一次会。
二次会。
三次会。
どこまでが現実で、どこからが曖昧なのか。
ノアの記憶は、そこで途切れた。
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次に意識が浮上したのは、朝だった。
知らない天井。
静かすぎる部屋。
ノアは、まず自分の状態を理解するのに時間がかかった。
半裸だった。
「……え?」
声が裏返った。
ゆっくり隣を見る。
蘭がいた。
固まっていた。
彫刻のように。
目が合う。
沈黙。
五秒。
十秒。
蘭が、人生で一番冷静な声で言った。
「……間違いね」
ノアは喉を鳴らした。
「間違いだ」
「忘れましょう」
「同意する」
完璧に噛み合っていた。
噛み合いすぎて怖い。
ノアは震える手でシーツを引き上げた。
蘭は既に服を整えていた。
早い。
仕事が早い。
夫婦として最悪の方向に有能だった。
ノアは絞り出すように言った。
「記憶が……ない」
「私もない」
「……本当に?」
「本当に」
蘭は一拍置いて付け足した。
「あなたがバカな弟に見えることだけは覚えてる」
「それは覚えてるんだ」
「重要事項よ」
ノアは頭を抱えた。
胃が痛い。
兄さんがいつもこうなのも分かる気がした。
その時。
スマホが震えた。
父上からだった。
『生きているか』
ノアは打った。
『生きています』
送信。
すぐに返信。
『よろしい。では後継者の話をしよう』
「やめて!!!!」
ノアの叫びは、朝日に吸い込まれた。
蘭は窓を開けて言った。
「……二度と飲み会に行かない」
「同意する」
だが二人とも分かっていなかった。
『この“間違い”が、数週間後に世界をひっくり返すことを。』
飲みすぎ注意
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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