その54 「夕食」
こいつらほんとに恋愛するんだろうか・・・
その日の夕方。
ホテルのロビー。
ノアがやけに機嫌よく歩いていた。
嫌な予感しかしない。
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そして。
柱の影。
佐伯悠馬がいた。
なぜいるのか。
なぜ隠れているのか。
本人にもわからない。
ただ。
目の前にエレノアがいた。
それだけだ。
それだけで十分に胃が痛い。
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「エレノアさん!」
ノアが声をかけた。
エレノアが足を止める。
相変わらず整った姿勢。
相変わらず落ち着いた顔。
悠馬は柱の影で息を止めた。
息だけしてろ。
自分に言い聞かせる。
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「今日、ディナーをご一緒にいかがですか!」
ノアが笑顔で言う。
悠馬の胃がきゅっと縮んだ。
(なぜ誘う)
(なぜ今)
(なぜ勝手に)
エレノアは表情を変えない。
「遠慮します」
「えー!」
「所用がありますので」
淡々。
揺るがない。
悠馬は柱の影で固まった。
所用。
業務外。
私用。
誰と?
どこへ?
”なぜ気になる”
意味が解らない。
意味が解らないまま、胃が痛い。
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ノアはあっさり笑った。
「わかりました!じゃあまた!」
軽い。
爆弾は軽い。
エレノアは小さく会釈して去っていった。
悠馬は柱の影から出られなかった。
出る理由もない。
ただ。
胃が痛い。
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その夜。
ホテルのレストラン。
席に着いているのは三人だった。
ノア。
ルイス。
そして悠馬。
最悪の組み合わせである。
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「兄さん!」
ノアが元気だ。
息だけはしていない。
「エレノアさんも誘ったんだけど断られてね!」
悠馬の手が止まった。
「あ……」
変な声が出た。
「あ、ああ……」
それだけで済ませた。
済ませるべきだ。
仕事だ。
部下だ。
所用だ。
業務外だ。
それだけだ。
それだけのはずだ。
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「所用があるってさ」
ノアがあっさり言う。
「所用……」
悠馬はフォークを握った。
所用。
私用。
昨日の元夫。
“エリー”。
噂。
情報が多い。
胃が痛い。
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ルイスが静かにナイフを置く。
「叔父上、食事中です」
「……ああ」
礼儀が正しい。
余計胃が痛い。
ノアは楽しそうに食べる。
ルイスは静かに食べる。
悠馬は胃薬の位置を確認する。
夕食は平和だった。
”表向きは”
エレノアは来なかった。
悠馬は少しだけ気にした。
『気にした理由は、まだわからなかった』
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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