その53 「遭遇」
奥様「光」ネットワーク
田舎の近所のばーちゃんネットワーク的な
日曜日。
ホテルの外は平和だった。
平和すぎる。
爆弾が動くときは、大抵こういう日だ。
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ノアは街を歩いていた。
ルイスが隣にいる。
カイルもいる。
”最悪の散歩トリオ”である。
「父上」
ルイスが真顔で言った。
「これは息ですか」
「息だよ」
「移動する息ですね」
「そう!」
カイルが笑う。
「移動する息って何だよ。Amazing」
「褒めるな!」
ノアは胸を張った。
「今日は日曜日だし、兄さんも休みだし!」
「悠馬は胃薬抱えて死んでると思うけどな」
カイルがさらっと言う。
「やめろ!」
ルイスが頷く。
「叔父上は昨日から元気がありません」
「冷静に言うな!」
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街角。
小さな広場。
噴水。
鳩。
平和。
平和すぎる。
そして。
”平和の中にいるべきではない集団”がいた。
帽子。
扇子。
品の良い笑い声。
”奥様方”である。
昨日の夜会の残党。
通信速度、”光”
ノアの背筋が凍った。
(やばい)
カイルがにこやかに言う。
「やばいな」
「言うな!」
ルイスが真顔で言った。
「奥様方です」
「説明しなくていい!」
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遅い。
目が合った。
奥様方の目が輝く。
「あら」
最悪の一音。
「ハミルトン伯爵ではありませんか」
ノアは反射で笑顔を作った。
「こんにちは!」
奥様方が一斉に寄ってくる。
「まあまあ」
「昨日は素敵でしたわ」
「息子さんもご一緒で」
ルイスが礼儀正しく頭を下げる。
「こんにちは」
奥様方が歓声を上げる。
「なんて良い子!」
「お行儀が完璧!」
「本当に佐伯様にそっくり!」
ノアの胃が痛くなった。
兄さんの胃を返せ。
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奥様の一人が扇子で口元を隠し、さらりと言う。
「ところで伯爵」
「はい?」
「昨日、佐伯様に似ていると申し上げたら」
一拍。
「彼は佐伯様の息子だと聞きましたの」
ノアの脳が停止した。
横でカイルが小声で呟く。
「終わった」
「黙れ!」
ルイスが真顔で頷く。
「私は父上の息子です」
「そうだよ!」
ノアは必死だった。
奥様は微笑む。
「ええ、もちろん。伯爵の息子ですわ」
一拍。
「でも、佐伯様にそっくりでいらっしゃる」
噂は整合性を求める。
最悪である。
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ノアは笑顔で言った。
「兄さんにそっくりでしょう?」
奥様方の目が光る。
「まあ」
「兄さん?」
「佐伯様は伯爵の……?」
ノアは勢いで続けた。
「兄なんです!」
嘘ではない。
血は繋がっていないが”兄”である。
だが奥様は違う解釈をする。
「まあ……兄……」
「そういう……」
「なるほど……」
完成していく。
噂が。
物語が。
整合性が。
『最悪だ』
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カイルが肩をすくめる。
「噂って怖いな」
「お前が言うな!」
ルイスが真顔で付け足す。
「叔父上は困ります」
「困るのは兄さんだ!」
ノアは笑顔のまま汗をかいていた。
奥様方は優雅に微笑む。
「佐伯様にもよろしく」
「ええ、ぜひ」
「お大事に、と」
なぜ胃痛まで共有されているのか。
”奥様ネットワークは万能”だった。
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こうして。
日曜日の散歩は終わった。
爆弾は解除されなかった。
噂だけが育った。
兄さんの胃だけが死んだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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