その50 「進路」
世間の連休は僕にとって地獄です_| ̄|○
その日の午後。
ロッテは父の書斎にいた。
庭の景色は良い。
空気は穏やか。
父はソファに座り、新聞を読んでいる。
穏やかな男だ。
ママの元夫であることを除けば。
「パパ」
ロッテが言った。
「ん?」
レオンは顔を上げ、微笑む。
「どうした、ロッテ」
その声は優しい。
ロッテは少しだけ胸を張った。
「アビトゥーアが終わったら」
「うん」
「イギリスに行く」
レオンの眉がわずかに動く。
「……行きたい、ではなく?」
「行く」
即答だった。
決定事項である。
レオンは新聞を畳む。
「エレノアは?」
「ママにはもう話した」
「そうか」
父は静かに頷く。
「オックスフォードか?」
ロッテは一瞬だけ目を細めた。
「……候補」
「難しいぞ」
「知ってる」
知っている顔だ。
知っていると言えば通ると思っている顔だ。
レオンは少し笑った。
「理由は?」
ロッテは答えかけて、止まった。
理由は一つではない。
ママの国だから。
未来だから。
自分の道だから。
そして。
(ウサギ)
ロッテは心の中で呟く。
昨夜、壁際にいた男。
肩書きは華やかなはずなのに、本人は驚くほど地味で、胃が痛そうで。
でも。
取引先の頂点。
オックスフォード卒。
ママのボス。
ロッテは口元を整える。
「進学よ」
正しい理由を出した。
レオンは頷いた。
「それなら応援する」
あまりにも穏やかに。
ロッテが少しだけ拍子抜けする。
「反対しないの?」
「反対する理由がない」
レオンは娘を見つめる。
父親の目だ。
「君が望むなら」
ロッテの目が少し光る。
(そうか)
(望めばいい)
処すだけではない。
近づく手もある。
敵を知る必要がある。
ロッテは静かに微笑んだ。
レオンはそれを見て、嫌な予感がした。
「ロッテ」
「なに」
「何か隠しているか?」
ロッテは瞬きをした。
「隠してない」
完璧な嘘だった。
レオンはため息をついた。
「……エリーに似てきたな」
ロッテの背筋が伸びる。
「ママをエリーって呼ぶのやめて」
「癖だ」
「癖は直すべき」
「厳しいな」
レオンは笑った。
穏やかな笑いだ。
ロッテは少しだけ黙ってから言った。
「パパ」
「ん?」
「ママの隣はパパであるべき」
直球だった。
レオンの笑みが一瞬だけ止まる。
そして、すぐ戻る。
「ロッテ」
声は優しい。
「世界は君の思う通りにはならない」
「でも」
「でも、君は君の道を選べる」
ロッテは眉を寄せた。
「私は選ぶ」
「それでいい」
レオンは頷いた。
「君が進むなら」
ロッテの目が細くなる。
(そういう手もある)
ロッテは心の中で繰り返す。
ママの隣に立つ資格を量るなら、まず敵を知る必要がある。
ロッテは静かに微笑んだ。
レオンはそれを見て、確信した。
これは”余計なこと”が始まる。
「ロッテ」
「なに」
「余計なことはするな」
「してない」
もうしている。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
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