その48 「物語は整合性を得る」
大体ノアのせい(何度目?!)
ノアは捕獲されていた。
向かいに凛。
隣にカイル。
治安が良すぎる。
「ノア」
凛が優しく言った。
優しいが、逃げ道がない。
「君は昨日、夜にルイスを連れ出したでしょう」
「散歩だよ!」
「散歩で噂を輸出しないで」
「してないよ!」
即答したが、カイルが低い声で言う。
「した」
「爆弾扱いひどい!」
「爆弾です」
凛が淡々と頷く。
「今日は外出は許可制です」
「僕、囚人?」
「爆弾です」
「囚人よりひどい!」
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ノアはしばらく黙ったあと、急に真面目な顔をした。
「兄さんにお土産を買いたい」
一拍。
「……悠馬に?」
「そう。兄さんは生存確認が必要だから」
「必要なのは君の監視です」
凛は微笑んだまま言った。
「カイル」
カイルが立つ。
「同行する」
「えっ」
「自由ではない」
「自由時間じゃないの!?」
「自由ではない」
繰り返された。
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十分後。
ノアはホテル近くの通りを歩いていた。
自由ではない。
横にカイルがいる。
自由ではない。
背後にも気配がある。
(凛、絶対どこかで見てるな)
爆弾は監視付きで移動していた。
そして。
最悪の偶然は、最悪のタイミングで起きる。
「あら」
店先で談笑していた年配のご婦人方が、ノアに気づいた。
昨日の夜、
ガーデンパーティの中心にいた人たちだ。
「ハミルトン伯爵」
にこやかな声。
「はい!」
ノアが反射で返事をした。
(やめろ)
カイルの視線が刺さる。
ご婦人は微笑んだ。
「昨日のルイス君?でしたわね」
「……はい」
「とてもお行儀のよい、いい子」
「ありがとうございます!」
ノアは胸を張った。
胸を張るな。
凛の声が脳内で響く。
(余計なことを言うな)
(ルイスを連れ回すな)
(息だけしてろ)
だがノアは爆弾だった。
婦人は首を傾げる。
「ところで……」
声が少しだけ低くなる。
「佐伯様のご子息と伺いましたけれど」
ノアの脳が止まる。
(誰だそんなこと言ったの)
婦人はにこやかだ。
「もちろん、伯爵の息子さんでいらっしゃるのでしょうけれど」
“もちろん”が怖い。
ノアは笑顔を崩さず、爆弾を投下した。
「兄の佐伯にそっくりなんですよ!」
一拍。
「かわいいでしょう?」
沈黙。
次の瞬間。
ご婦人方の目が光った。
「あら、まあ」
「そういうことなのね」
「なるほど……」
なるほどじゃない。
ノアは慌てて付け足す。
「いや、息子です!僕の!」
婦人たちは微笑む。
「ええ、ええ」
その微笑みが一番怖い。
カイルがノアの襟を掴んだ。
「撤収」
「え、僕、褒めただけ!」
「爆発した」
「爆発してない!」
「した」
「してない!」
「した」
撤退が早い。
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その日の午後。
ドイツ社交界には、もっともらしい物語が完成した。
ハミルトン伯爵の息子ルイスは、佐伯悠馬に似すぎている。
偶然だろうか。
血縁だろうか。
守られているのだろうか。
真実はどうでもよかった。
物語は整合性を得た。
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一方その頃。
ホテルの部屋。
悠馬は壁際で胃を押さえていた。
(……静かだ)
静かすぎるのは怖い。
そしてなぜか、胃が痛い。
理由はわからない。
わからないまま、世界だけが勝手に進んでいく。
爆弾は解除されていなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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