幕間 「休日/回収」
ノアが段々バカになる・・・
翌朝。
ドイツの空は妙に澄んでいた。
昨日の夜が嘘みたいに静かだ。
庭も、灯りも、爆弾もない。
――いや。
爆弾はいる。
確実に同じホテルのどこかにいる。
それが一番怖い。
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悠馬は部屋の椅子に座ったまま、動けずにいた。
仕事はない。
予定もない。
会議もない。
つまり。
逃げ場がない。
(……何をすればいいんだ)
静かすぎる。
静かすぎて、胃が痛い。
そんな時。
控えめなノック。
「……はい」
ドアが開く。
エレノアだった。
相変わらず整った服装。
相変わらず落ち着いた顔。
「おはようございます、佐伯さん」
「あ、おはようございます……」
休日なのに背筋が伸びる。
条件反射である。
エレノアは淡々と告げた。
「本日は商談も会食も入っておりません」
「……はい」
「ですので、佐伯さんのご予定を確認に」
「よ、予定……」
悠馬は固まった。
そんなものはない。
あるはずもない。
「……特に、ありません」
エレノアは少しだけ頷く。
「承知しました」
一拍。
「では私は私用で外しますので」
「……え」
悠馬の脳が止まった。
私用。
外す。
つまり、仕事じゃない。
どこへ?
誰と?
――いや、違う。
”聞く必要はない”。
聞けるわけもない。
悠馬は必死に平静を装った。
「あ、はい……どうぞ」
「何かあればフロントを通してください」
「……はい」
それだけ言って、彼女は静かに出ていった。
部屋に残るのは沈黙。
(私用……)
悠馬は額を押さえた。
(……関係ない)
関係ない。
仕事だ。
それだけだ。
胃が痛いのはいつものことだ。
そういうことにしておく。
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次の瞬間。
今度は乱暴なノック。
叩き割る勢い。
嫌な予感しかしない。
「……はい」
ドアが開く。
凛だった。
その後ろに。
ノアがいる。
にこにこしている。
最悪だ。
「悠馬」
凛の声は優しい。
優しいが、冷たい。
「回収に来たわ」
「助かります」
悠馬は即答だった。
「早く持ってってください」
「ひどい!」
ノアが叫んだ。
「兄さん、僕だよ!弟だよ!」
「爆弾だろ」
「爆弾じゃないよ!」
「爆弾だ」
凛が静かにノアを見る。
ノアが反射で背筋を伸ばす。
「すみません!」
慣れすぎている。
凛は淡々と続けた。
「子供たちも回収した」
「……ありがとうございます」
「あなたは休め」
「はい」
悠馬は胃を押さえた。
凛が一拍置いて言う。
「せっかく来たのに、ノアが全部台無しにしたから」
「いつものことです」
「なので」
一拍。
「もう少し旅行を楽しんで帰る」
「……楽しめるんですか」
「私が管理する」
ノアがにこにこする。
「やった!僕、自由時間!」
凛の目が冷える。
「自由ではない」
「はい!」
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凛はノアの襟を掴んだ。
「行くわよ」
「兄さんも一緒に――」
「行かない」
悠馬は即答だった。
「お願いだから行って」
凛が頷く。
「安心して」
一拍。
「逃げたら殺す」
「はい!」
ノアが元気よく返事をした。
元気よく返事をしている場合ではない。
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こうして爆弾は回収された。
悠馬は椅子に沈み込む。
静かだ。
やっと静かだ。
胃が痛い。
だが。
まだマシだ。
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一方その頃。
廊下の角。
ノアが凛の隙を見て、そっとスマホを握りしめる。
(兄さんは俺が幸せにするんだ)
(誰も頼んでないけど)
(俺の使命だから!)
目がきらきらしている。
最悪の爆弾は、まだ解除されていなかった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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