幕間 「それぞれの夜」
また幕間です。本編でいいじゃないかと思わなくもないですが幕間です。
夜は、綺麗に終わった。
灯りは最後まで柔らかく、
笑い声は上品なまま消えていった。
何事もなかったように。
――そういうのが、社交だ。
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ホテルの部屋に戻った悠馬は、ネクタイを外す手が遅かった。
静かだ。
静かなのに、胸の奥がうるさい。
(……ロッテ嬢)
あの視線。
あの問い。
母親を守るようでいて、裁くような。
答えられるはずがない。
そもそも自分が何を疑われているのかすら、
分かりきっているのが一番きつい。
胃が痛い。
いつも通りだ。
いつもより少しだけ、深い。
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そのころ、レオン邸。
ロッテは自室の窓辺で、庭の闇を見下ろしていた。
母は完璧だった。
父の隣に立つと、なおさら引き立つ。
――やっぱり。
(ママの隣は、パパだ)
そう思った。
そうであるべきだと思った。
なのに。
母の目が、ほんの一瞬だけ違った。
あの男を見る目が。
柔らかく揺れた。
それが許せない。
怖い。
母が変わるのが。
だから今夜は、まだ言わない。
父に言えば、きっと動く。
動けば母は遠ざかる。
ロッテは拳を握りしめた。
(ウサギは……だめ)
それだけは確信だった。
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書斎でレオンはグラスを傾けていた。
エレノアから届いた短い言葉が、まだ頭に残っている。
『気にしないで。仕事よ』
仕事。
そう言うときの彼女は、いつも正しい。
正しいのに。
(庇ったな)
庇う必要のない男を。
弱そうに見えて、妙に折れない。
目の奥に、長く生き残った人間の硬さがある。
面白い。
終わった過去なのは間違いない。
それでも。
かつての妻が、意外な方向へ歩きかけているのは――
少しだけ、興味深かった。
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そして。
ホテルの廊下で、爆弾だけが元気だった。
ノアはスマホを見ながら、にこにこしている。
「順調だなぁ」
誰も頼んでいない。
誰も許可していない。
それが一番怖い。
悠馬の胃だけが、未来を察していた。
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夜は静かに更けていく。
何も終わっていないまま。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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