幕間 「後継者の話(養子案)」
家族のグループLINEかなんかだろうかw
ノアと蘭が結婚した。
――あの事後報告から、数年が経った。
式はなかった。
騒ぎもなかった。
契約は淡々と成立し、二人は淡々と仕事を続けた。
そして父上――エドワードが引退し、ノアは爵位を継いだ。
問題が一つ増える。
後継者。
貴族制度は容赦がない。
時間が経てば経つほど、周囲は当然のように尋ねる。
「お世継ぎは?」
笑顔で。
無邪気に。
殺意を込めて。
その日、僕はロンドンのフラットで書類に埋もれていた。
エレノアが来る前の、まだ生活が崩壊していた頃だ。
胃薬の減りだけが規則正しい。
そこへノアから連絡が入った。
『兄さん』
いつもの声。
いつもの調子。
だが、少しだけ真面目だった。
『相談があります』
「ろくでもない予感しかしない」
『失礼ですね』
「事実だ」
一拍。
『後継者の話です』
僕はペンを止めた。
数年前から分かっていた爆弾だ。
「……来たか」
『来ました』
ノアは淡々と言った。
『父上も母上も引退しました。僕が継いだ以上、次が必要です』
「分かっている」
『でも』
ノアは少しだけ間を置いた。
『子供は難しいと思います』
「……は?」
僕は眉を寄せた。
「君たち、夫婦だろう」
『契約です』
即答だった。
呼吸のように。
『兄さん』
ノアは真面目に言う。
『僕は兄さんが大好きです』
「やめろその前置き」
『でも兄さんに似ている人を、そういう対象として見るのは無理です』
「待て」
僕は頭を抱えた。
「何の話をしている」
『蘭は兄さんに似てます』
血縁だ。
妹だ。
似る。
それを恋愛に持ち込むな。
胃が痛い。
そして、蘭本人はさらに淡々としていた。
『私は元々、異性に興味がない』
短いメッセージ。
『踏み込まれるのも嫌』
続けて。
『ノアはバカな弟にしか見えない』
ひどい。
あまりにひどい。
ノアは平然としている。
『ほら、そういうことです』
「そういうこと、で済ませるな」
僕は呻いた。
「じゃあ、どうする」
『養子です』
「……養子?」
ノアはさらりと言った。
『凛には子供が四人いますし』
酷い。
酷すぎる。
『その中から一人もらえばいいのでは?』
時差を越えて凛の声が飛んできた。
『殺す』
即答だった。
僕は思った。
数年経っても、この家は平常運転だ。
そして僕の胃も、平常運転で痛い。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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