幕間 「釘と暴走」
ノア対策に凛夫婦。キッズを引き取るだろうからルイス君は落ち着けるかも
報告は届いていた。
当然のように。
ハミルトンの情報網は国境を越える。
誰がどう繋がっているのかは謎だが、
届くものは届く。
火山の煙は共有される。
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ハミルトングループ。
通知が鳴る。
『ノア』
一拍。
『余計なことするな』
凛だった。
氷点下。
続けて。
『今から行く』
カイルのスタンプ。
AMAZINGの顔。
最悪の組み合わせ。
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ノアはスマホを見てにこにこした。
「えっ、来るの?」
来るな。
止めろ。
誰か止めろ。
”止められるわけがない。”
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ホテルの一室。
爆弾キッズは相変わらず爆弾だった。
「プール行こう!!」
「お菓子!!」
「ドイツのヤード最高!!」
「ここはヤードじゃない!!」
ルイスが限界の顔をしている。
ノアは父親の笑顔で抑える。
「はいはい、落ち着いて」
落ち着かない。
『誰も』
その隙に。
ルイスはそっと抜け出した。
足音を殺して。
貴族のステルス。
向かう先は決まっている。
”父上”
父上のそばが一番安全。
父上が一番危険でもあるが。
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その頃。
ホテルのロビーに氷が差し込んだ。
凛だった。
隣にカイル。
笑顔。
祭りの顔。
凛は受付を通り過ぎる。
止まらない。
一直線にノアのところへ。
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「ノア」
声が冷たい。
ノアが反射で背筋を伸ばす。
「は、はい!」
「動くな」
「はい!」
「喋るな」
「はい!」
「息だけしてろ」
「はい!」
完璧な釘。
完璧な氷点下。
カイルが横で頷く。
「Yes」
黙れ。
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凛は目を細めた。
「兄に余計なことをするな」
ノアは笑顔で頷く。
「もちろん!」
もちろん分かっていない。
釘など意味を持たない。
ノアは火薬工場にガソリンを撒いて踊る男だ。
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夜の予定は決まっていた。
【ガーデンパーティ】
会社関係者の顔見せを兼ねた、
軽い社交。
当然。
子供など連れて行く場所ではない。
正気なら。
通知が鳴った。
ノアのスマホだけが震える。
『本日の夕刻、ガーデンにて』
レオンからの案内。
形式的な一文。
だがノアには違った。
(戦場だ)
兄さんがいる。
エレノア嬢がいる。
元旦那がいる。
娘がいる。
火山がある。
行かねばならない。
使命だ。
ノアは拳を握った。
(僕しかいない)
(今ドイツにいるのは僕だけだ)
(兄さんを守れるのは僕だけだ)
余計なお世話である。
しかし。
ここで問題が一つ。
凛だ。
凛に知られたら終わる。
氷点下で殺される。
確実に。
だから。
(黙って行こう)
ノアは決めた。
世界で一番危険な決意だった。
部屋の奥では爆弾キッズが寝る準備をしている。
「明日プール!」
「お菓子!」
「ヤード!」
「静かに!」
ルイスが疲れた顔で毛布を整えている。
貴族の魂が限界だ。
ノアはそっと上着を手に取った。
音を立てない。
ステルス。
できていない。
ドアノブが鳴った。
カチャ。
「父上?」
小さな声。
ルイスだった。
暗闇に目が光る。
「どこへ」
ノアが固まる。
「……散歩だよ」
「夜に?」
「夜に」
ルイスの目が細くなる。
貴族は察する。
「嘘ですね」
「嘘じゃない」
「嘘です」
子供は正しい。
ノアはしゃがみ込んだ。
「大丈夫」
一拍。
「兄さんを守りに行くだけだ」
ルイスの瞳が輝いた。
「悠馬おじさん?」
「そう」
「行きます」
「だめ」
「行きます」
だめだ。
勝てるわけがない。
ノアは小さくため息をついた。
「……静かにね」
「はい」
静かにできる子ではない。
だがノアはもう止まれない。
こうして。
ノアは黙って動いた。
釘を九割破りながら。
使命感を燃料にしながら。
そして。
厄災は夜のガーデンへ向かう。
誰にも知られずに。
――知られないはずがない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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