幕間 「暴走機関車と胃痛の追加燃料」
大体ノアのせい(いつもの)
ホテルに戻る車内は二つに分かれていた。
爆弾一行。
そして。
悠馬とエレノア。
世界が違う。
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【爆弾一行】
「楽しかった!!」
「お菓子最高!!」
「ガーデンって走っちゃだめなんだな!」
「ヤードだろ!!」
「違う!!」
まだ言っている。
ルイスが頭を抱えている。
ノアは笑顔だ。
笑顔のまま。
脳内で別の火山が噴火していた。
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(兄さんを見逃すわけがない)
ノアは確信していた。
エレノアが悠馬をそっと場から離した。
つまり。
(気にかけている)
仕事以外でそんな事実はない。
だがノアの中では確定だ。
(兄さんはエレノア嬢が好きだ)
確定事項。
あの目は間違いない。
悠馬はそこまで自覚していない。
だがノアは決めつける。
(今!)
(ドイツに!)
(居るのは!)
(俺だけだ!!)
拳を握る。使命感が爆発する。
(俺は兄さんが好きだ!!)
(絶対に!!)
(幸せに!!)
(してみせる!!)
余計なお世話である。
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ノアは思い出す。
「喋るな」
「動くな」
「息だけしてろ」
「ルイスをなるべく連れ歩くな」
”釘”。
家族会議で刺された釘。
その九割を、
ノアはすでに破っていた。
息はしている。
それだけだ。
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【その頃、悠馬とエレノア】
ホテルのロビーは静かだった。
爆弾がいないだけで世界が平和に見える。
悠馬は胃を押さえながら歩いた。
今日はもう限界だ。
普通に過ごしたい。
ただ静かに眠りたい。
そんな願いが叶うはずもない。
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「佐伯さん」
エレノアが呼ぶ。
悠馬がびくりとする。
「……はい」
エレノアは淡々と続けた。
「先ほどは本当に失礼しました」
「……え?」
「娘が」
一拍。
「感じやすい年頃でしょう」
悠馬の胃がきゅっと縮む。
感じやすい年頃。
つまり。
(妙な勘違いをした)
確定だ。
やはり誤解されている。
絶対に。
エレノアは穏やかに言った。
「妙な誤解をしたみたいで」
ほら、確定。
悠馬は死んだ目をした。
「……は、はい」
何も言えない。
言えば墓穴だ。
さらに。
エレノアはさらっと追加した。
「レオンにも伝えておいたわ」
悠馬が固まる。
「……え?」
「娘に余計なことを言わないように、と」
余計なこと。
何が余計だ。
全部余計だ。
胃が痛い。
悠馬は思った。
(僕はただ仕事をしているだけなのに)
(なぜドイツでまで胃が痛いのか)
世界は理不尽である。
エレノアは変わらず平常運転だった。
「明日は商談です」
「はい……」
「朝は八時に」
「はい……」
「仕事ですから」
「……仕事ですから」
仕事という言葉が唯一の防壁だった。
薄い。
紙の盾だ。
【その頃、イギリス】
ハミルトン邸。
なぜか。
本当になぜか。
情報は届く。
届いてしまう。
エドワードが紅茶を飲みながら言った。
「……ドイツか」
口元がわずかに上がる。
ジェシカがため息をつく。
「ノアがいるのよね?」
拓海が呟く。
「終わったな」
菜摘が胃薬を握る。
「悠馬が可哀想です」
凛が氷点下で笑う。
「殺す」
カイルだけが明るい。
「AMAZING!!」
黙れ。
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こうして。
ドイツの火山は第二段階に入った。
悠馬だけが何も知らないまま。
ノアだけが踊っているまま。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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