その41 「家族紹介と審査」
悠馬はノアの兄。間違ってはいないのだが…
庭園は戦場になっていた。
「お菓子!!」
「走るなって言ってるだろ!!」
「ヤードは遊ぶとこだよ!!」
「ここはガーデンです!!」
文化が違う。
芝の意味が違う。
庭の概念が違う。
ルイスが貴族の魂で必死に止めている。
爆弾キッズは止まらない。
悠馬は胃を押さえている。
平常運転だ。
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その時。
ノアが両手を叩いた。
パン、と妙にいい音がした。
「はいはい、みんな落ち着こうか」
父親の声。
イクメンの声。
場を制する声。
爆弾キッズが一瞬だけ止まる。
ルイスが救われた顔をした。
ロッテが冷たい目で見ている。
悠馬が嫌な予感しかしない顔をしている。
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ノアは爽やかに微笑んだ。
「せっかくだから」
一拍。
「正式に紹介しよう」
悠馬の胃が鳴った。
嫌な予感しかしない。
ノアはルイスを抱え直す。
「まず」
「僕の息子」
ルイスが胸を張る。
「ルイス・悠人・ハミルトンです!」
一瞬。
空気が止まった。
ロッテの眉が、ほんの僅かに動く。
(ユウト?)
(悠人?)
悠馬。
悠人。
音が近い。
嫌な一致。
(やはり訳あり?)
脳内で勝手に線が繋がる。
ノアは続けた。
「で、こちらが従兄弟たち」
爆弾キッズがわらわらと前に出る。
「イーサン・ヴァイツマン!」
「タイラー・ヴァイツマン!」
「リリー・ヴァイツマン!」
「マックス・ヴァイツマン!」
元気。騒音。
庭園が泣いている。
ルイスが必死に言う。
「走らないでください!ここはガーデンです!」
「庭だろ!?ヤードは走るとこだよ!」
「違います!」
文化戦争。
芝が死ぬ。
ノアはまったく動じず、
最後の爆弾を落とした。
「そして」
一拍。
満面の笑み。
「僕の兄」
「佐伯悠馬」
悠馬が咳き込んだ。
「……は?」
兄。
『今。ここで。言うな。』
爆弾キッズが叫ぶ。
「叔父さん!!」
「ユウマ!!」
「ウサギ!!」
「ウサギじゃない!!」
悠馬は胃を押さえた。
「やめろ……」
ノアはにこにこしている。
「もう知ってるよね☆」
知らない。
何も知らない。
ロッテだけが全てを誤解していく。
混乱の中。
ロッテは一つだけ確信した。
このままでは何も分からない。
噂も。
火山も。
ウサギも。
そして”母”も。
だから。本人に聞くしかない。
ロッテは一歩進んだ。
爆弾キッズの騒音を縫うように。
芝を踏まない完璧な歩き方で。
そして。
佐伯悠馬の前に立つ。
悠馬はびくりと肩を揺らした。
怯えすぎだ。
萎える。
……いや。
少しだけ面白い。
「佐伯さん」
悠馬が反射で背筋を伸ばす。
「は、はい」
声が裏返りかけている。
ウサギだ。
完全に。
ロッテは微笑んだ。
社交の笑み。
刃のついた笑み。
「ノア卿と……ご兄弟なのですか?」
悠馬が固まった。
「……え?」
脳が処理を拒否している。
胃がきゅっと縮んだ顔。
ロッテは続ける。
「先ほど、“兄”と」
悠馬の口が開く。
閉じる。
開く。
閉じる。
「……あ、あの」
一拍。
「血は」
そこで止まった。
止まるな。
”説明しろ。”
ロッテは待つ。
悠馬は小さく言った。
「義理、です」
「義理」
「妹の……夫なので」
間違ってはいない。
だが。
余計にややこしい。
ロッテの脳内が勝手に補完する。
(妹)
(契約結婚)
(隠し子)
(悠人)
(火山)
全部繋がる。
繋がってしまう。
悠馬は必死に付け足した。
「だから、その」
「兄というのは」
「ノアが勝手に」
勝手に。
勝手に?
勝手にここまで燃えるの?
ロッテはさらに確信した。
このウサギは説明が下手だ。
『致命的に。』
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その時。
爆弾キッズが叫ぶ。
「叔父さん!お菓子!」
「走るな!」
「ヤードだろ!」
「ガーデンです!!」
悠馬が完全に死んだ目になった。
ファッ、という顔だ。
声にならない悲鳴。
「ロッテ」
低い声。
母だった。
エレノアが立っている。
静かに。
だが、空気が変わる。
ハンターの声。
「お辞めなさい」
たったそれだけで、
ロッテの背筋が伸びた。
「……失礼しました」
反射で頭を下げる。
母の制止は絶対だ。
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エレノアは悠馬を見た。
ほんの少し。
困ったように。
そして。
そっと距離を詰める。
「佐伯さん」
悠馬がびくりとする。
「少しこちらへ」
母は自然に彼をその場から離した。
爆弾の中心から。
戦場から。
まるで守るみたいに。
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ロッテはその背中を見た。
母の手。
悠馬の怯え。
母の静かな誘導。
その一瞬。
母の目がほんの少しだけ柔らかい。
楽しそうに踊る。
やはり。
(ママは)
(このウサギ男を)
(……)
ロッテの確信は深まった。
最悪だ。
”絶対に認めない。”
『絶対に。』
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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