その37 「火山の余波」
すいません、またどこかで幕間抜かしてる気がしています_| ̄|○
一方その頃。
イギリス、ハミルトン邸。
午後の紅茶は穏やかだった。
穏やかであるべきだった。
凛のスマホが震えるまでは。
通知。
件名。
【Booking Confirmation / Germany / 6 Guests】
一拍。
「……六?」
指が止まる。
宛先。
To: Noah Hamilton
CC: Hamilton Family
「……」
凛の拳が静かに握られた。
ゆっくりと、氷点下の声が落ちる。
「……あの馬鹿」
隣でカイルが画面を覗き込み、目を輝かせた。
「Amazing!!」
「Amazingじゃない」
凛が即答する。
「最高のサプライズだよ!」
「最高の自爆よ」
凛の視線が冷える。
カイルは止まらない。
「兄さんの恋が動く!」
「動くのは胃薬の消費量よ」
「ロマンスだ!」
「火事よ」
「火山だ!」
「正解」
凛は拳を机に置いた。
音がした。
机が死んだ。
「帰ったら殺す」
カイルはにこにこした。
「帰る頃には成立してるかも!」
「殺す」
こうして。
ノアの“こっそり”は、
家族全員に露見した。
厄災は海を越える。
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そして。
その厄災を乗せたまま。
ドイツの朝は始まっている。
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商談先は、歴史のある邸宅だった。
門をくぐると整えられた庭。
噴水。
白い石畳。
上流階級の空気。
胃が痛い。
僕は平静を装いながら歩いた。
隣ではエレノアさんが当然のように並ぶ。
淡々と。
揺るがず。
仕事の顔。
……そのはずだった。
応接室へ案内される。
そして。
入ってきた男が、笑った。
「エレノア。久しぶりだね」
空気が止まった。
エレノアさんはほんの少しだけ目を細める。
「そうね。変わりないの?」
軽い。
軽すぎる。
僕の脳が追いつかない。
久しぶり。
知り合い。
いや、そんな距離じゃない。
男は僕に視線を移した。
「こちらが?」
ボスが紹介する。
「佐伯悠馬です。今回の代表で」
男は手を差し出した。
「歓迎するよ。君が噂の佐伯か」
噂。
噂はやめてくれ。
握手をしながら、僕は思った。
(……噂って何だ)
(どこまで届いてる)
(ノアのせいで世界が燃えている)
商談は淡々と進んだ。
僕は仕事だけをした。
それだけ。
それだけなのに。
ふとした瞬間。
男とエレノアさんの間に流れる空気が、
ただの“取引先”ではないことを示していた。
言葉の端。
距離。
呼吸。
僕は気づいてしまう。
(……あれ)
(もしかして)
(この人)
元旦那。
そんな単語が頭をよぎり、
胃がきゅっと縮んだ。
エレノアさんは平然としている。
僕だけが勝手に動揺している。
情けない。
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商談が終わり、
男は穏やかに言った。
「そうだ、今週末に小さなガーデンパーティを開くんだ」
嫌な単語が並ぶ。
「昔の縁もあるしね。ぜひ来てほしい」
エレノアさんが微笑む。
「……そう」
そして。
僕を見て少し考えるように言った。
「子供連れでも……大丈夫かしら?」
僕は目を見開いた。
なぜその質問を。
男は快諾した。
「もちろん。家族で来るといい」
家族。
家族。
家族。
僕の胃が鳴った。
横でエレノアさんが、いつも通りの声で言う。
「気を利かせたつもりです」
僕は震える声で答えた。
「……火山にガソリンを注ぎましたね」
エレノアさんはくすくす笑った。
「ええ。噴火するかしら」
する。
確実に。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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