表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/61

その35 「違和感」

悠馬君地獄の10日間の始まりです

朝七時。


ロンドンの空はまだ薄暗かった。


悠馬はスーツケースを引きずりながら、

フラットの玄関を出た。


眠い。

胃が痛い。


いつも通りだ。


だが今日は質が違う。


十日。


長い。

長すぎる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


迎えの車は既に止まっていた。


運転手が礼をする。


「おはようございます、佐伯様」


「……おはようございます」


悠馬は反射で返した。

乗り込もうとして、


ふと視界の端に動く影が見えた。


道路の向こう。


建物の陰。

誰かが立っている。


……ノアだ。


こんな早朝に?


なぜ?

フラットの前に?


悠馬が目を細めた瞬間。


ノアが拳を握りしめた。


そして。


ガッツポーズをした。


”満面の笑み”で。


「……」


悠馬は固まった。


(何を喜んでいる)


(何を達成した顔なんだ)


(頼むからやめてくれ)


ーーーーーーーーーーーーーー


だが時間がない。


運転手がドアを押さえている。

悠馬は胃を押さえながら車に乗り込んだ。

後ろでノアが親指を立てた気がした。


最悪である。


空港へ向かう車内。


エレノアは既に座っていた。


黒いコート。

整った髪。


完璧な平常運転。


「おはようございます」


「……おはようございます」


ーーーーーーーーーーーーー


エレノアは手帳を開きながら言う。


「搭乗まで四十分あります」


「……はい」


「到着後、そのままホテルへ」


「……はい」


「午後に先方との顔合わせ」


「……はい」


悠馬は頷く機械だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


ドイツに降り立つ。


空気が違う。

言葉が違う。

街の匂いが違う。


当たり前だ。

海外なのだから。


でも。


違和感はそれだけではなかった。


ーーーーーーーーーーーーーー


迎えの車。


格式の高いホテル。

スイート。


”十日”。ー


胃が鳴く。


ーーーーーーーーーーー


部屋に入る。


窓の外に街並み。

整いすぎた室内。


静かな高級感。


ここで十日。


胃が耐えるわけがない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


エレノアが荷物を置きながら言った。


「午後まで少し時間があります」


「……はい」


「休めるうちに休んでください」


優しい。

優しいのが怖い。


悠馬は頷いた。


そして思った。


これは仕事だ。

仕事のはずだ。


なのに。


何かが――


最初から少しだけ噛み合っていない。


窓の外の空は青い。


しかし悠馬の胃は曇っていた。


そして彼はまだ知らない。


このホテルが、


“取引先”だけの場所ではないことを。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


一方その頃。


ロンドン。


いや。


正確には火薬工場。


ーーーーーーーーーーーーーーー


ノアは静かに机に向かっていた。


珍しく真剣な顔だ。


周囲が見ればこう思うだろう。


(やっと反省したのか)


違う。

全く違う。


夏休みだ。


子供たちは暇を持て余し始めた。


屋敷の庭は広い。


広いが。

広いからといって全てが解決するわけではない。


走る。

叫ぶ。

芝生が死ぬ。

ルイスが泣く。


ノアは思った。

夏休みと言ったら。


そう。


「バカンス」だ。


もうお気づきだろう。


子供「達」を連れたノアは、


ある計画を立てていた。


『ドイツ旅行』


もちろん周りには秘密で。

もちろん兄さんには内緒で。

もちろん最悪のタイミングで。


ノアはにこにこしながらチケットサイトを開いた。


「サプライズって大事だよね」


火薬工場にガソリンを撒きながら。





ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ