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その34「オフィスにエドワードが来る」

毎回事後承諾の悠馬君。いい加減学べ


その日、悠馬は書類に埋もれていた。


夏休みは子供のものだと思っていた。


違う。


大人にも等しく地獄をくれる。

ノアは現場にいない。

ルイスはなぜか昨日も来た。


噂は火山になり、

胃は当然痛い。


いつも通りだ。

いつも通りなのに、


最近は少しだけ質が違う。


燃料が多い。


主にノアのせいで。


ーーーーーーーーーーーーー


受付から内線が入った。


『佐伯さん……あの』


嫌な予感しかしない。


『エドワード様が……こちらに』


「……は?」


聞き返す間もなく、

ドアが開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エドワード叔父上が入ってきた。


静かに。


当然のように。


ここが自分の城だと言わんばかりに。


悠馬は立ち上がり、礼をする。


「叔父上」


「うむ」


それだけ。

それだけで胃が縮む。


叔父上は机の上の書類を一瞥した。


そして眉を寄せる。


「生活が荒れているな」


「仕事です」


「言い訳だ」


会話が刺さる。

逃げ場がない。


叔父上は本題に入った。


一拍も置かずに。


「先日より持ち上がっているドイツの件だ」


悠馬の脳が仕事モードになる。


助かる。


仕事の話ならまだ助かる。


「先方が代表を求めている」


「……承知しています」


「お前が行け」


「え?ノアでは?」


「今回はお前が行け」


「……はい」


反射で返事をした。


ここまでは普通。


ここまでは。


エドワード叔父上はさらりと言った。


「秘書同伴で」


悠馬の眉がわずかに動く。


「……秘書?」


「当然だ」


一拍。


そして。


紅茶を飲むような口調で続けた。


「あ、秘書はエレノア嬢な」


「…………は?」


胃が止まった。

脳が拒否した。


単語は分かる。

意味も分かる。


組み合わせが分からない。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「叔父上」


悠馬は慎重に言葉を探す。


「それは……」


「決定だ」


即答。

怖い。


悠馬は言い返せなかった。


できるはずがない。


叔父上は“決める人”で、

悠馬は“実行する人”だ。

いつもそうだった。


幼い頃から。


エドワード叔父上は書類を整え、


満足そうに言った。


「以上だ」


「……はい」


返事をしてから気づく。


(今、何に返事した?)


胃がきゅっと縮む。


叔父上は立ち去る間際、


振り返りもせず付け足した。


「準備は整えておく」


整えなくていい。

勝手に整えないでほしい。


悠馬の心の叫びは声にならない。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


ドアが閉まった。


静寂。


悠馬は椅子に沈みかけた。


そのとき。

背後から声がした。


「兄さん」


嫌な声。

明るい声。

余計な声。


ノアだ。


絶対いる。


絶対聞いている。

絶対余計なことをする。


ーーーーーーーーーーーーーー


悠馬はゆっくり振り返った。


ノアがにこにこしていた。


「良かったね」


「何が」


「ドイツ」


一拍。


「新婚旅行みたいだね」


「……違う」


即答した。

胃が痛い。


ノアは無邪気に続ける。


「兄さんさ」

 

一拍。


「エレノア嬢に“仕事ですから”って言われたら終わりだよね」


悠馬の背筋が凍った。


まだ言われていない。


まだだ。

でも未来が見える。


見えすぎる。


「ノア」


悠馬は低い声で言った。


「頼むから黙れ」


「え、なんで?」


本気で分かっていない。

最悪である。


悠馬は額を押さえた。


胃が痛い。

頭も痛い。


火薬工場にガソリンを撒いて踊る男が、

今ここにいる。


そして叔父上は、

それを笑って見ている。


ドイツ。

秘書同伴。

エレノア。

事後承諾。


逃げ場なし。


悠馬は思った。

これは出張ではない。

包囲だ。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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