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幕間 「夏休みのずれ」

ルイスがアメリカに行くのも面白そうだな

会議が終わった。


終わったというより、

ひとまず紅茶が冷めた。 


有能嫁最終フェーズは置いておいて、

目の前の火事をどうにかしろ、という結論である。


ーーーーーーーーーーーーーー


廊下に出ると、


子供の声がした。


笑い声。

走る足音。

芝生が泣く音。


ハミルトン邸の庭園は今日も戦場だ。


凛は腕を組んだまま窓の外を見ていた。


カイルが隣に立つ。


「ルイス、疲れてるね」


凛は即答した。


「当然よ」


そもそも、時期に差があった。


アメリカの夏休みは早い。


子供たちは六月の終わりには解放される。


だから凛一家が来た時、


従兄弟たちはすでに“夏”だった。


元気が余っていた。

距離が近かった。

声が大きかった。

抱きついた。

走った。


”ガーデン”を”ヤード”みたいに使った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


でも。


ルイスはまだ学校だった。


英国の夏休みはもう少し先。


彼だけが日常のまま、

突然やってきた嵐に巻き込まれた。


最初の数日は、まだ良かった。


ルイスは礼儀正しく、


黙って耐えた。


伯爵家の一人息子は耐える訓練だけはできている。


それが余計にいけなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


七月に入った。


ルイスも夏休みに突入した。


逃げ場がなくなった。

毎日が従兄弟だった。

毎日がアメリカだった。

毎日が嵐だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


そして。


ルイスは静かに疲弊した。


表情が減った。

返事が短くなった。


笑う代わりに距離を取るようになった。


その結果。


彼は“逃げた”。


逃げ先は最悪だった。


職場。

オフィス。


佐伯悠馬の火薬工場。


ーーーーーーーーーーーーーー


ノアは喜んだ。


息子が来る。

兄さんに似た顔がそこにいる。

眼福。

地獄。


噂が燃えた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


従兄弟たちはそれを見ていた。


毎日どこかへ行くルイス。

朝になると消える。


夕方に戻る。

疲れた顔で。


でも少しだけ落ち着いて。


ーーーーーーーーーーーーーー


リリーがぽつりと言った。


「ルイス、ここ嫌なのかな」


タイラーが眉をひそめる。


「俺たち、うるさい?」


マックスが首を傾げる。


「でも遊びたいだけだよ?」


イーサンが一番年上らしく肩をすくめた。


「距離だろ」


一二歳のくせに達観している。


アメリカは怖い。


ーーーーーーーーーーーーーーー


凛はそれを聞いていた。


氷点下の目で。

でも。

少しだけ現実的に。


「子供にも外交が必要ね」


カイルが笑った。


「家庭内国連だね」


「黙れ」


凛は冷たい。


でも否定はしなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


その日の午後。


ハミルトン邸の一角に“基地”が作られた。


走っていい部屋。

叫んでいい部屋。

発散する場所。


庭園を守る隔離施設。


そして別に。


ルイスのための小さな避難所。


本棚。

机。

静かな椅子。

逃げてもいい場所。


貴族の子息にも必要なもの。


ルイスがそこに座る。

リリーが覗き込む。


「ここ、入っていい?」


ルイスは一瞬迷った。

そして。

少しだけ言葉を選んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「……来るなら」


一拍。


「静かに」


従兄弟たちが瞬きをする。


そして。

なぜか従った。

奇跡である。


凛が遠くで頷いた。


「学んでるわね」


カイルが笑う。


「距離感ってやつだ」


夏休みはまだ続く。


噂も火山も止まらない。


でも。


居場所がひとつ増えるだけで、

子供たちは少しだけ上手になる。

大人よりずっと早く。


ーーーーーーーーーーーーーー


そしてその夜。


書斎で紅茶を飲みながら、


エドワードが静かに言った。


「……さて」


一拍。


「次は本人だ」


誰もいないはずの部屋で、


火薬工場の次の爆発が決まった。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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