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その4 「秘書、登場」

エレノアさんの役割は「パーソナル・アシスタント」ってとこですね。便宜上「秘書」って呼ぶけどw

紹介すると言われた日から、悠馬の胃は落ち着かなかった。


秘書もハウスキーパーも必要ない。

そう何度も思った。


仕事は回っている。

生活は回っていないが、それは、努力の問題だ。


努力。


努力という言葉は便利だ。

できないことを全部そこに押し込められる。


悠馬は応接室の椅子に座り、手元の書類を整えた。

整えても、意味はない。


こういう時、叔父上は必ず“整えられないもの”を持ち込む。

扉がノックされた。


「失礼いたします」


入ってきたのは、女性だった。


年齢は悠馬より少し上。

派手さはない。


けれど、空気が整っていた。


背筋がまっすぐで、歩き方に迷いがなく、

視線は柔らかいのに、ぶれない。


その人は、悠馬の前で止まり、軽く頭を下げた。


「エレノア・ローズと申します」


名前を聞いた瞬間、叔父上の声が脳裏をよぎる。


ーーー最終計画だ。


悠馬は咳払いをした。


「……佐伯悠馬です」


「存じております」


即答だった。


当然だ。紹介なのだから。

なのに、悠馬は少しだけ居心地が悪かった。


この人は、知っている。


噂も。

立場も。

胃が痛いことも。


そんな気がした。


「本日から秘書としてお手伝いさせていただきます」


「僕は特に困っていません」

反射で言ってしまった。


言った後で、幼稚な防衛だと自分でも思う。


エレノアは驚かなかった。

ただ、小さく頷く。


「そうですね」


肯定されると、余計に落ち着かない。

悠馬が眉を寄せると、彼女は続けた。


「困っていない方ほど、倒れる時は急です」


悠馬の指が止まった。


胃薬の減り方を見ているわけではないだろう。

なのに言葉が正確すぎる。


悠馬は視線を逸らした。


「……余計なお世話です」


エレノアは微笑んだ。

踏み込まない微笑みだった。


「承知しています」


一拍。


「安心してください。踏み込みません」


悠馬は思わず彼女を見る。

彼女は淡々と名刺を差し出した。


「仕事は完璧にします」


それだけだった。

条件も、感情も、押しつけもない。


ただ、仕事。


悠馬は名刺を受け取った。

指先が触れそうで触れない距離。


その距離が、妙に心地よかった。


扉の外で気配がした。


振り返ると、エドワード叔父上が立っていた。

愉快そうに目を細めている。


「どうだ、悠馬」


悠馬は小さく息を吐いた。


「……有能そうですね」


「だろう」


叔父上の笑みが深くなる。


悠馬は知らなかった。


この日から自分の生活が少しずつ整えられていくことを。


 そしてそれが、なぜか――


怖いのに、嫌ではないことを。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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