表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/61

幕間 「似ている背中」

蘭はほとんどアメリカにいるので息子:ルイス君とはあまり一緒にいません。

ルイスは笑っていた。


庭で。

夏の光の中で。

従兄弟たちに囲まれて。


少し遅れて、少し控えめに。


それでも確かに笑っていた。


蘭はそれを遠くから見ていた。


母親らしく手を振ることもなく、

声をかけることもなく。


ただ、見ている。


子供は不思議だ。


笑い方ひとつで、

世界が軽くなる。


それなのに。


ルイスの笑顔の奥には、

どこか硬いものがある。


いつでも引けるように構えている。


踏み込みすぎない。


壊さない。

壊れない。


(似ている)


蘭は思った。


誰に。

言うまでもない。


悠馬兄さん。


兄は、ずっとそうだった。


泣かなかった。

怒らなかった。

甘えなかった。


最初から。


最初から“そういう人”だったみたいに。


でも蘭は知っている。

兄は最初からああだったわけじゃない。


”ああならざるを得なかった”だけだ。


兄は。

幼い頃に、

家から連れてこられて。

役割を与えられて。

守れと言われて。

守るしかなくて。

守り続けて。


『そのまま固まった』


ルイスが転びかけた。

従兄弟が笑う。


ルイスは笑い返す。


でも。


泣かない。

泣く前に笑う。


泣いていい場所を探す前に、


平気な顔をする。


(やめなさい)


蘭は心の中でだけ言った。


声にはならない。

声にしたところで、


兄はきっと困る。

ルイスも困る。


蘭は母親だ。


でも母親という言葉には、

抱きしめるとか、

励ますとか、


そういう形が求められる。


蘭にはそれが少し難しい。


代わりに。


蘭は現実を見る。

冷静に。


残酷なほど正確に。


(兄さんは、人間に戻りかけている)


エレノアという女が来てから。

兄の生活は整い始めた。

整いすぎて、兄は怯えている。


滑稽で。

可愛くて。


少し腹が立つ。


(今さら)


蘭は思う。


(今さら、そんな顔をするの)


ルイスがこちらを見た。


目が合う。

小さな伯爵家の息子。

自分の子供。


そして。


”兄に似た背中”


「母上」


ルイスが呼ぶ。


硬い声。

礼儀正しい声。


七歳の声にしては整いすぎている。


「……なに」


蘭は短く返す。


ルイスは少し迷って、

それから言った。


「悠馬おじさんは」


一拍。


「いつも、ああなの?」


蘭は瞬きをした。

胸の奥が少しだけ痛い。


「……そうね」


蘭は答える。


「ずっと、ああよ」


「ずっと?」


「ずっと」


ルイスは黙った。

何かを理解した顔だった。


理解しなくていいのに。

子供は理解が早すぎる。


蘭は続けた。

珍しく。


言葉を足した。


「だから」


一拍。


「あなたは、真似しなくていい」


ルイスの目が少しだけ揺れた。


「……でも」


「でもじゃない」


蘭は言った。

母親らしくない強さで。


「あなたはあなた」


「兄さんは兄さん」


「同じにならなくていい」


ルイスは小さく頷いた。


その頷きが、

少しだけ柔らかくなった気がした。


蘭は思う。


兄は。

きっと。

誰にも戻してもらえなかった。


だから今、

戻りかけているなら。


(逃すなよ)


蘭は心の中でだけ呟く。


ノアに。

家族に。

世界に。


そして。


兄自身に。


『今度こそ、人間になれ』



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ