その29 「暴走機関車」
大体ノアのせい(毎回)
ノアは反省した。
一拍だけ。
ほんの一拍だけ。
エレノアの言葉は正論だった。
火薬工場にガソリンを撒いて踊るな。
うん。
分かる。
分かるのだ。
だからノアは考えた。
真剣に考えた。
そして最悪の結論に達した。
「僕が表で踊るからいけないんだ」
違うそうじゃない。
踊るな。
「ならば」
一拍。
「父上に任せればいい」
もっと悪い。
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ノアはスマホを取り出した。
連絡先。
父上。
発信。
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『どうした』
エドワードの声は落ち着いている。
落ち着きすぎている。
落ち着いている時ほど危険なのを
ノアは知っている。
「父上」
ノアは低い声で言った。
「兄さんが危機です」
『いつものことだ』
「今回は火山です」
『いつも火山だ』
父上は動じない。
胃薬耐性がある。
「噂が育ちました」
『ほう』
ほう、で済ませるな。
「エレノア嬢が距離を置き始めています」
一拍。
沈黙。
そして。
『……ほう?』
ほう、の温度が変わった。
危険。
「兄さんが何も知らないままです」
『それは良い』
「良いのですか?」
『知らぬが仏だ』
仏にする気か。
「父上」
ノアは拳を握った。
「ここで動かなければ兄さんは一生独身のままです」
『……』
沈黙。
沈黙が一番怖い。
『召集だ』
一言だった。
短い。
強い。
国家案件の音がした。
「誰を」
『全員』
全員。
最悪の言葉である。
「母上も?」
『当然だ』
「拓海父さんも?」
『当然だ』
「菜摘母さんも?」
『当然だ』
「凛も?」
『当然だ』
「蘭も?」
『当然だ』
「カイルも?」
『……カイルは黙らせておけ』
「了解です」
了解するな。
ノアは微笑んだ。
優しい笑顔。
最悪の笑顔。
「父上、作戦名は?」
一拍。
エドワードは静かに言った。
『有能嫁最終フェーズ』
最終が何回目だ。
『今度こそ逃がさない』
紅茶の匂いがした。
胃薬の気配もした。
電話が切れた。
ノアは深く息を吐いた。
「兄さん」
小さく呟く。
「僕が守る」
誰も頼んでいない。
守り方が爆発。
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一方その頃
悠馬は執務室で書類をめくっていた。
胃薬を飲みながら。
淡々と。
何も知らずに。
「……静かだな」
嫌な予感がした。
静かな時ほど、
ノアは動いている。
遠くで。
ハミルトン邸の会議室の扉が開く音がした。
暴走機関車が走り出す音がした。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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