幕間 「観察者(捕食者の目)」
エレノアさんは悠馬君が「観察対象」です。今のところは?
ハミルトンという家は不思議だ。
皆、真顔でとんでもないことを言う。
家族会議。
紅茶。
胃薬。
包囲網。
最終フェーズ。
国家プロジェクト。
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エレノアはカップを口に運びながら思った。
(……楽しそうね)
自分は外側にいる。
だから余計に見える。
この家の熱量。
この家の狂気。
そして。
『中心にいる男の鈍さ。』
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佐伯悠馬は今日も怯えている。
守られているのに怯えている。
包囲されているのに気づいていない。
可哀想で。
少し可愛い。
可愛い、というのは危険だ。
四十を過ぎてなお、
そんな感想を抱くのは面倒だ。
面倒で。
それなのに目が離れない。
今まで見てきた男たちは
もっと分かりやすかった。
欲しいものが顔に出る。
触れたいものに手を伸ばす。
距離を詰める。
奪う。
守るふりをして所有する。
そういう”生き物”だった。
けれど。
この男は違う。
距離を詰めれば一歩下がる。
こちらが何もしていないのに怯える。
触れられることに慣れていない。
まるで――
『捕まえられたことのない小動物』
可哀想だと思う。
同時に、
少しだけ、
試してみたいとも思う。
どこまで近づけば逃げるのか。
どこまで触れれば固まるのか。
どんな顔をするのか。
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そんな自分に、
エレノアは内心で笑った。
(私は何をしているの)
もう恋愛で遊ぶ年でもない。
遊び尽くしたはずなのに。
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ノアが笑っている。
あれは危険な笑顔だ。
火薬工場の管理者の顔。
エドワードが紅茶を飲んでいる。
あれはもっと危険だ。
全てを計算している顔。
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(組んだら止まらないわね)
エレノアは静かに結論づけた。
そしてもう一口飲む。
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「佐伯さん」
呼べば、彼はびくっと肩を跳ねさせる。
「はいっ」
忠実すぎる反応。
獲物みたいな反応。
エレノアは微笑んだ。
優しく。
穏やかに。
捕食者は牙を見せない。
「……頑張ってくださいね」
「何をですか……」
悠馬の声が震えている。
「生存を」
エレノアはさらりと言った。
悠馬の胃が死んだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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