その3 「最終計画」
悪だくみ三人組。(一応パッパは止めてる模様)
エドワード・ハミルトンの執務室は、隠居という言葉が似合わなかった。
引退したはずの男の机には書類が積まれ、紅茶はいつも温かく、
そして何より……目が暇をしていない。
「家政婦が辞めたそうだな」
向かいのソファで、ノアが肩をすくめた。
「ええ。兄さんが報告に来てました」
「当然だ。彼の生活は家政婦で保っている」
拓海が眉間に皺を寄せる。
「保ってるじゃねえよ。放っといてやれよ」
エドワードは涼しい顔で答えた。
「放っておくと死ぬだろう」
ノアが真顔で頷く。
「胃が」
「胃が」
拓海が頭を抱えた。
「お前ら……」
エドワードは指を組む。
「悠馬は仕事ができる」
「はい」
「だが生活ができない」
「はい」
「支える存在が必要だ」
拓海が嫌な予感に目を細めた。
「……またその話か」
エドワードの口元が、わずかに上がる。
「有能嫁だな」
「嫁じゃねえ!!」
拓海が即座に机を叩いた。
ノアは面白そうに笑った。
「父上、本人は嫁なんて求めてませんよ。ただ生活が回らないだけで」
「同じことだ」
「違う!」
拓海が叫ぶ。
エドワードは楽しそうに紅茶を一口飲んだ。
「まあいい。言葉の問題だ」
「問題はそこじゃない!」
ノアがふっと息を吐く。
「で、父上。もう用意したんでしょう」
エドワードの笑みが深くなる。
「さすがだ、ノア」
拓海が青ざめる。
「やめろ。頼むから悠馬をこれ以上いじるな」
「いじっているわけではない」
エドワードは穏やかに言った。
「最終計画だ」
ノアが目を輝かせる。
「最終計画」
「最終計画って言うな!!」
拓海が呻く。
エドワードは引き出しから一枚の書類を取り出した。
写真付きの経歴書。
それを、テーブルに置く。
「新しい秘書だ」
ノアが覗き込む。
「……エレノア・ローズ」
写真の中の女性は、派手ではない。
だが目が強い。整っている。
拓海が眉をひそめた。
「年上か」
「悠馬の条件だ」
エドワードは淡々と続ける。
「家事全般。雑務。家計管理。生活の整備」
ノアが小さく笑った。
「全部できないことを条件にしてる」
「できれば少し年上で落ち着いた人」
「同伴が必要な場合の相手にもなれる人」
拓海が頭を抱える。
「それは家政婦じゃない……!」
エドワードは微笑んだ。
「だから秘書だ」
ノアが写真を見つめたまま言った。
「……結婚歴三回」
「恋多き女だったそうだ。経験し尽くして、今は一人」
拓海が嫌そうに言う。
「悠馬、死ぬぞ」
「死なない」
エドワードは即答した。
「彼女は踏み込まない」
ノアが目を細める。
「踏み込まないから、悠馬は逃げない」
エドワードの笑みが、愉快そうに深くなる。
「悪くないだろう?」
拓海はしばらく沈黙し……やがて、諦めたように息を吐いた。
「……悪くないかもな」
ノアが頷く。
「じゃあ、それで」
エドワードは立ち上がった。
「決まりだ」
拓海が最後の抵抗をする。
「悠馬にちゃんと説明しろよ!」
エドワードは振り返り、にやりと笑った。
「悠馬は、条件を出した」
そして静かに付け加える。
「――受け取るだけだ」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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