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幕間 「噂は完成する」

どこまでも噂に翻弄される悠馬君の人生

夏休み。


それだけの理由で、

ルイスは毎日職場にいる。


毎日。


当たり前のように。

当たり前ではないのに。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「……今日もいる」


「いるね」


「可愛いけどさ」


「可愛いとかいう問題じゃなくない?」


休憩室。

コーヒーの湯気の向こうで、

社員たちは声を潜めた。


「見れば見るほど」


一人が言う。


「佐伯さんにそっくり」


「そっくりすぎる」


「甥だって言ってたけどさ」


「甥でここまで?」


沈黙が落ちる。

そして。

誰かが小さく言った。


「……隠し子ってやっぱ本当なんじゃ」


火がついた。


「そういえばさ」


別の声。


「佐伯さん、一時期必死で嫁探ししてたって噂あったじゃん」


「え、あったあった」


「叔父上がどうとか」


「有能嫁とか」


適当である。

そんな事実はない。

と、いうか本人は探していない。


ーーーーーーーーーーーーーー


「しかもさ」


さらに別の声が続ける。


「アメリカ行ってたよね。一ヶ月くらい」


「行ってた」


「帰ってきたらその話、きっぱり消えたじゃない?」


「……消えたね」


沈黙。


もっともらしい沈黙。


「あー……」


誰かが察したように息を吐いた。


「そういうことか」


「お相手が事情ありだったんじゃない?」


「表に出せないとか」


「立場的に」


勝手に物語が整う。


最悪だ。


声がさらに落ちる。


「まさか……不倫」


「うわ」


「最低」


最低なのはお前たちの想像力だ。


「でもさ」


一人が小さく言った。


「子供が生まれたから子供だけ引き取ったんだね」


「それをノア様が育ててる…?」


「泣ける話っぽくしてるけど普通に地獄じゃん」


地獄である。


本人の胃が。


そして決定打。


「ノア様ってさ」


「佐伯さんベッタリだよね」


「好きすぎて妹さんと結婚したって」


「ええー……」


空気が冷えた。


「最悪じゃん」


「いや、最悪なのは社内の噂だよ」


「でも辻褄合いすぎない?」


「合ってないよ」


「合ってるように見えるのが怖い」


誰も止めない。


噂は止まらない。


廊下の向こう。


ルイスの笑い声が聞こえた。


「悠馬おじさん!」


明るい。

罪がない。


だから余計に。


そして。


その声を聞いたエレノアは、


ほんの少しだけ足を止めた。


仕事の顔のまま。


踏み込まない顔のまま。


距離を測るように。


佐伯悠馬は、


何も知らない。

知らないまま、

今日も胃薬を飲む。


噂は完成していく。


本人の人生を置き去りにして。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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