その26 「避難先」
ルイスが会社に来た理由回
夏休み。
ハミルトン邸は賑やかだった。
賑やかすぎた。
子供が五人もいると、
屋敷は戦場になる。
噴水。
芝生。
叫び声。
笑い声。
そして。
小さな衝突。
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「ルイス、遅い!」
タイラーが言った。
悪意はない。
ただ速い。
速すぎる。
「遅くない」
ルイスが即答する。
性格はノアに似ている。
わりと負けず嫌いだ。
「でもさ!」
リリーが首を傾げた。
「なんでそんなに考えるの?」
一拍。
ルイスが止まる。
考える。
その一拍が悠馬に似ている。
「考えるのは悪いことじゃない」
ルイスが言う。
七歳にしては妙に落ち着いた声だった。
リリーは凛に似ている。
容赦がない。
「ふーん」
興味なさそうに笑う。
「変なの」
刺さる。
軽い。
軽いから刺さる。
「変じゃない!」
ルイスが声を上げた。
タイラーがすぐ乗る。
「変だよ!」
「変じゃない!」
「変!」
子供の会話は火花が早い。
マックスが横で叫ぶ。
「Fight!!」
最悪だ。
「やめなさい」
イーサンが止めに入る。
年長者の苦労が滲む。
「喧嘩じゃないよ」
「喧嘩だよ」
「喧嘩じゃない!」
喧嘩である。
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ルイスは一歩下がった。
混ざれる。
混ざれるのに。
急に疲れる。
兄弟がいるというのは、
こういうことなのか。
常に近い。
常にぶつかる。
常に熱い。
「……もういい」
ルイスが小さく言った。
タイラーが目を丸くする。
「え?」
ルイスは振り返った。
走り出す。
屋敷の中へ。
廊下。
静かだ。
大人の世界は静かだ。
ルイスはほっと息を吐いた。
その瞬間。
「ルイス?」
声がした。
父上だった。
ノアがしゃがみ込む。
目線を合わせる。
イクメン面をしている。
「どうしたの?」
「……うるさい」
「え?」
「従兄弟が」
「元気でいいじゃない!」
「元気すぎる」
ルイスは真顔だった。
悠馬の血だ。
ノアは数秒考えた。
そして。
にこっと笑った。
嫌な笑いだ。
「じゃあ」
一拍。
「職場に行こうか!」
最悪だ。
「職場?」
「兄さんがいるよ!」
「悠馬おじさん?」
「そう!」
ルイスの顔が少し明るくなる。
ノアは確信した。
息子は兄さんが好きだ。
当然だ。
顔が同じなのだから。
翌日。
悠馬は現場にいた。
胃が痛い。
いつも通りだ。
そこへ。
「兄さーーん!!」
聞きたくない声。
ノアだった。
そして。
足元。
「悠馬おじさん!」
突撃。
腹に衝撃。
「ぐっ……!」
悠馬の胃が死んだ。
「なぜ」
悠馬は絞り出す。
「なぜここにいる」
ノアが爽やかに言った。
「避難!」
「避難!?」
「従兄弟がうるさいんだって!」
「それは家庭で解決しろ!」
「兄さんの職場は安全だよ!」
「安全じゃない!」
悠馬の職場は火薬庫だ。
ノアがガソリンを撒いている。
ルイスは椅子に座った。
小さな足をぶらぶらさせる。
周囲の社員が固まる。
「……今日もいる」
「常駐…?」
「夏休みだから?」
「いや、もう毎日じゃない?」
噂が育つ。
燃える。
完成する。
エレノアが通りかかった。
ルイスを見る。
悠馬を見る。
一拍。
穏やかに言った。
「佐伯さん」
「……はい」
「火のない所に煙は立たないと言いますが」
一拍。
「あなたの周りは火事というより」
少し微笑む。
「火山が噴火しているレベルですね」
悠馬は胃薬を握りしめた。
否定する言葉が見つからない。
ルイスが首を傾げた。
「火山?」
「……違う」
悠馬は小さく言った。
「ノアが踊ってるだけだ」
「踊ってないよ!」
ノアが即答した。
即答するな。
こうして。
ルイスの避難先は職場になった。
誤解もまた、
避難する暇なく広がっていく。
最終形態へ。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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