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その25 「常駐」

ルイスくんは普段大人とばかりいっしょにいることが多いので大人の中にいる方が安心できます。

託児スペースは完成した。


早すぎる。

昨日まで倉庫だった場所が、

今日には明るい床と小さな椅子と絵本で満ちている。


『ハミルトンですから』


何でも起きる。

怖い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


悠馬は見なかったことにした。


見たら終わる。

胃が終わる。


でも。


”終わりは向こうから来る”


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「兄さん!」


朝。


聞きたくない声がした。


振り向くとノアが立っていた。


久しぶりに職場にいる。

にこにこしている。

最悪だ。


「現場は?」


「リモートで」


「無理だろ」


「大丈夫!」


大丈夫じゃない。


悠馬の胃が先に叫んだ。


そして。


ノアの足元。


小さな影。


「悠馬おじさん!!」


弾丸が来た。


「ぐっ……!」


腹に突撃。

第二波。


ルイスだった。


七歳。


顔が悠馬。


性格がノア。


災害の融合体。


「……なぜ」


悠馬は絞り出した。


「なぜここにいる」


「託児所ができたから!」


ノアが胸を張る。


「上司が先例を作らないとね!」


「作らなくていい!」


「兄さんも安心でしょ!」


「何が!」


「後継者教育!」


「違う!」


全てが違う。

だがルイスは笑っている。

罪がないのが罪だ。


ーーーーーーーーーーーーー


周囲の視線が刺さる。


刺さりすぎて痛い。


「うわ…ほんとにそっくり」


「連れてきた…」


「常駐だ…」


「公然と…」


囁きが増殖する。

火山が息をする。


託児スペースの前で、社員たちが立ち止まる。


「可愛いですね」


「佐伯さんに瓜二つ」


「ノア様、溺愛してますよね」


「そりゃ…」


誰かが言葉を飲み込んだ。


飲み込め。

飲み込んでくれ。


エレノアが通りかかった。


足が止まる。

視線がルイスに落ちる。


そして悠馬に戻る。


一拍。


「……佐伯さん」


「……はい」


悠馬は胃薬を握った。


エレノアは穏やかに微笑む。


優しいほど遠い。


「職場にまで…」


一拍。


「大変ですね」


大変ですね、の中に全部入っている。


事情。

立場。

過去。


火山。


「違うんです」


悠馬は即答した。

必死すぎる。

墓穴の匂いがする。


「これはノアが勝手に」


「ええ」


「甥で」


「ええ」


「血縁で」


「ええ」


「僕は」


一拍。


「何も」


言いかけてやめた。

何もない男だと言うほど怪しい。


エレノアは大人だ。


察してしまう。


ルイスがにこにこする。


「おじさん、今日お昼一緒に食べる?」


「……仕事が」


「おじさん、いつも仕事」


「……そうだね」


断れない。

断ると罪になる。


顔が悠馬だから。


最悪だ。


昼休み。


社員食堂。


悠馬の隣にルイス。

向かいにノア。


周囲がざわつく。


「完全に親子…」


「いや叔父と甥…」


「でもノア様が育てて…」


「後継者教育…」


「有能嫁内定…」


誤解が完成形になっていく。


火山が噴火した。


ノアが満足そうに言った。


「兄さん、いい環境だね!」


悠馬は静かに微笑んだ。

胃が死んでいる微笑みだ。


「……ノア」


「なに?」


「黙れ」


「え?」


「黙ってろ」


「僕、喋ってないよ?」


「存在が余計なんだ」


ノアが傷ついた顔をした。


しかし事実だ。


その日の夕方。


社内チャットに新しい呼称が定着した。


【リトル佐伯 本日も常駐】


悠馬は胃薬を追加した。


最終フェーズは続く。


本人の胃を置き去りにして。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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