その24 「黙れない男」
少し前にでてたノアの「福利厚生施設、キッズルーム」がここで完成ですwなんか前後して幕間とか書いてるのでわかりにくくてすいません
ノアは叱られていた。
正確には、叱られ慣れていた。
「黙れ」
凛に刺され。
「黙ってろ」
拓海に言われ。
「お願いだから黙りなさい」
ジェシカに微笑まれ。
父上――エドワードには紅茶と共に圧をかけられた。
結論。
ノアは黙ることにした。
『口では』
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翌日。
ノアは職場に来なかった。
現場にも行かなかった。
当然だ。
育児中なのだから。
育児中ということにしているだけだが。
皺寄せは悠馬に来た。
いつも通りである。
でも。
ノアは黙っていただけだった。
動いていないわけではない。
むしろ逆だ。
黙ると行動が増える。
最悪だ。
「佐伯さん」
秘書課の若い社員が恐る恐る言った。
「……何でしょう」
「その……ノア様が」
一拍。
「施設を作るそうです」
悠馬の手が止まった。
「……施設?」
「はい」
嫌な予感しかしない。
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昼。
社内メールが全社員に届いた。
差出人:ノア・ハミルトン
件名:
【福利厚生の拡充について】
悠馬は胃がきゅっと縮んだ。
読む前から胃が痛い。
『社員の皆さんへ
仕事と家庭の両立を支援するため、
社内に託児スペースを設置します。
小さなお子さんがいる方も安心して働ける環境を――』
悠馬は目を閉じた。
誰だ。
誰がそんなことを望んだ。
望んだのは一人だ。
ノアだ。
息子を置きたいだけだ。
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午後。
現場に出ると、もう工事が始まっていた。
「え、ここ昨日まで倉庫じゃなかった?」
「ノア様の指示で急遽」
「早くない?」
「ハミルトンですから」
魔法の言葉である。
『ハミルトンですから』
何でも通る。
怖い。
噂も変な方向に進化した。
「ノア様、イクメンすぎる」
「託児所って…すご」
「でもさ」
声がひそひそ落ちる。
「佐伯さんのためじゃない?」
「え?」
「だってほら」
「例の…」
「ああ」
全員が頷く。
最悪だ。
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「上司が先例を作らないとね」
ノアの言葉が誰かの口から再現される。
善意の顔をした私欲。
社内は勝手に納得する。
「佐伯さん、後継者教育してるんだ」
「リトル佐伯だもんね」
「将来の当主…?」
「いや隠し子…」
「いや甥…」
「いや有能嫁…」
火山が噴火した。
誰かが薪をくべ続けている。
主にノア様が。
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夕方。
悠馬のデスクに一枚の紙が置かれた。
新施設利用規約(案)
最終承認者:
「佐伯悠馬」
悠馬は静かに紙を見つめた。
胃が縮む。
指が震える。
そして。
小さく呟いた。
「……黙れと言っただろ」
言っても届かない。
ノアは黙っている。
口では。
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その頃。
ノアは自宅で息子を抱き上げていた。
「ルイス、これでいつでも職場に来れるね!」
「父上、また怒られる?」
「怒られないよ!」
ルイスは父に似ていた。
楽観的だった。
最終フェーズは続く。
本人の胃を置き去りにして。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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