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その14 「進捗報告会(休暇とは)」

お茶会という名の尋問

客間のテーブルは完璧だった。


白いクロス。

銀のティーセット。


焼き菓子。

紅茶の香り。


平和なはずの光景。


なのに。

僕の胃は痛い。


ルイスが椅子に座りきれずに揺れている。


「お菓子!お菓子!」


「先に紅茶よ」


ジェシカ叔母様――お祖母様が穏やかに言う。

叔父上は既に座っている。

王のように。


ノアもいる。

にやにやしている。


エレノアさんは僕の斜め後ろ。


淡々と。

逃げ道がない。


叔父上が紅茶を一口飲んだ。


そして。


「さて」


その一言で空気が締まる。


「進捗報告だ」


やめろ。


僕は胃を押さえた。


「叔父上、それは」


「悠馬」


即座に遮られる。


「君は倒れた」


「……はい」


「生活は崩壊していた」


「……最低限は」


「最低限では足りない」


叔父上は静かに言った。


「君は四十二だ」


年齢を武器にするな。


ノアが口を挟む。


「兄さん、四十二で倒れるの早くない?」


「お前が現場に行かないからだ」


「昨日行ったよ?」


「昨日だけだろ」


「兄さん厳しいなぁ」


厳しくさせたのは誰だ。

ルイスが菓子を頬張りながら言う。


「父上、怒られてる」


「怒られてないよ?」


「怒られてる」


子供は正しい。

叔父上が続ける。


「エレノア」


名前を呼ばれる。


エレノアさんが一歩前に出る。


「はい」


「悠馬は食べているか」


質問の内容が生活すぎる。

僕は死にそうになった。


エレノアさんは淡々と答える。


「倒れる前は、ほぼ食べていませんでした」


「ほう」


叔父上の“ほう”が出た。


ノアが吹き出す。


「兄さん、生活終わってるね」


「黙れ」


ジェシカ叔母様が穏やかに言う。


「ノア、煽らない」


「母上、でも兄さんが」


「煽らない」


即死。


叔父上が静かに言った。


「悠馬」


「……はい」


「君は有能だ」


「……ありがとうございます」


「だが」


来た。


「生活が雑だ」


来た。


ノアが嬉しそうに頷く。


「そうそう、兄さん家、僕の私服だらけだったし」


「言うな!!!!」


エレノアさんが淡々と補足する。


「今は処分しました」


「処分!?」


僕が叫ぶと、ノアが腹を抱えた。


「兄さんの私生活が消えていく」


「お前の私服が消えただけだ」


叔父上が咳払いした。


場が戻る。


「エレノア」


「はい」


「君の評価は高い」


「仕事ですので」


「仕事以上を期待している」


僕は紅茶を噴きそうになった。


「叔父上!」


「何だ」


「余計なことを言わないでください」


叔父上は穏やかに微笑んだ。


「余計ではない」


ノアがにやにやする。


「兄さん、顔赤い」


「殺すぞ」


ルイスが手を挙げた。


「ねえ、お祖父様」


「何だ」


「奥さん?」


「違う!!!!」


全員が一拍止まった。

ジェシカ叔母様が額に手を当てた。


「あー……」


叔父上は紅茶を飲みながら言った。


「進捗は順調だな」


「順調じゃありません!!!!」


僕の叫びが客間に響いた。

叔父上が満足そうにカップを置く。


「では」


一拍。


「次の段階に進もう」


やめろ。

僕の胃が未来を察知して痛んだ。


ノアが隣でにやにやする。


「兄さん、次の段階ってなに?」


「知らない」


「生活改善?」


「知らない」


「結婚?」


「殺すぞ」


ノアは笑った。

笑うな。


ルイスが菓子を頬張りながら言う。


「父上、叔父様怒ってる」


「怒ってないよ?」


「怒ってる」


子供は正しい。


ノアは肩をすくめた。


「でもさ、兄さん」


一拍。


「倒れたの、ちょっと面白かったよね」


空気が止まった。

ジェシカ叔母様が目を細める。


叔父上の手がカップの上で止まる。


エレノアさんの視線が動く。

ルイスがきょとんとする。


ノアは本気で悪気がない顔をしていた。


「だって兄さん、ずっと無敵みたいだったし」


続けるな。


「兄さんが倒れるって、初めて見た」


続けるな。


「人間だったんだなって」


僕の中で何かが切れた。


静かに。

音もなく。

僕はカップを置いた。


丁寧に。


それが一番怖い。


「ノア」


自分の声が低かった。


「お前」


一拍。


「本気で言ってるのか」


ノアの笑顔が止まる。


「え?冗談だよ」


「冗談?」


僕は静かに繰り返した。


「冗談で六年現場に行かなかったのか」


ノアが口を開く。


「それは……」


「冗談で僕が倒れるまで背負わせたのか」


「兄さん」


「冗談で」


声が少し震えた。


「僕の人生を削ったのか」


客間が静まり返る。

ルイスが小さく言った。


「……兄さん、こわい」


ノアが初めて言葉を失った。


僕は続けた。


「僕はお前の娯楽じゃない」


「……ごめん」


「兄と呼ぶなら」


僕は真っ直ぐ見た。


「兄として扱え」


ノアの目が揺れる。

ジェシカ叔母様が静かに言う。


「ノア」


「はい……」


「謝るのは今じゃないわ」


「……はい」


叔父上が紅茶を置いた。

穏やかに。


「悠馬」


「……はい」


「よく言った」


褒めるな。


僕は胃を押さえた。


エレノアさんが隣で小さく言った。


「……人間ですね」


僕は返せなかった。

ノアは俯いたまま言う。


「兄さん」


「何だ」


「……現場、行く」


「当然だ」


ルイスが小さく呟く。


「父上、怒られてよかったね」


「……うん」


紅茶の湯気が揺れる。


『世界が少しだけ色を持った気がした。』



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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