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その11 「エクストリーム土下座、再び」

はた迷惑なノア君。

翌朝。


僕はソファに沈んだまま動けなかった。

昨日の現場の白い視界が、まだ頭の奥に残っている。


ノアの腕。

誰かの声。

遠のく音。


そして――自分が倒れた事実。


エレノアさんはキッチンで静かに何かを作っている。


生活の音がする。


怖い。

でも少しだけ、安心する。


その時。


インターホンが鳴った。


短く、強い。


嫌な予感しかしない。


エレノアさんが淡々と立ち上がる。


「出ます」


「待ってください、僕が――」


「動かないでください」


即座に却下された。

僕は何も言えない。


エレノアさんがドアを開けた。


次の瞬間。


「兄さん!!!!!!」


叫び声。


そして。


ーー床に叩きつけられる音。


僕は目を閉じた。


来た。


昨日、僕が倒れる瞬間を隣で見ていた男。


ノアだ。


「兄さんが倒れたのを見て!!」


「運んだのも僕で!!」


「一晩寝ても胃が痛くて!!」


「とにかく土下座です!!!!」


意味が分からない。


僕は重い体を引きずって玄関へ向かった。


そこには。


床に額を擦りつけるノアがいた。


完璧な角度。

完璧な勢い。

完璧なエクストリーム。


「兄さん!!申し訳ありませんでした!!」


「うるさい」


「六年間!!」


「言うな」


「現場を!!」


「言うな!!」


ノアは顔を上げた。


目が潤んでいる。

演技か?

本気か?


判断がつかない。


「兄さんが倒れるまで僕は……」


「遅い」


「はい……!」


素直に認めるな。


腹が立つ。


でも。

少しだけ胸が痛い。


ノアは続けた。


「兄さんが全部背負ってたのに」


「今さらだ」


「今さらでも!」


ノアはまた床に頭を打ち付けた。


「兄さん!!!!許してください!!!!」


「許す許さない以前に近所迷惑だ」


エレノアさんが淡々と口を挟む。


「静かにしてください」


「はい!!」


即答。

従うな。


僕は眉を寄せた。


「ノア」


「はい兄さん!」


「帰れ」


「帰りません!!」


「帰れ」


「兄さんが休むまで帰りません!!」


「……お前は誰の秘書だ」


「兄さんの弟です!!」


違う。

僕の胃痛製造機だ。


エレノアさんが静かに腕を組んだ。


「ノア卿」


「はい!」


「あなたが現場に行けばよいのでは?」


ノアは固まった。


僕も固まった。


エレノアさんは続ける。


「佐伯さんが倒れた理由は、仕事量です」


「……はい」


「あなたの担当が主に現場だと聞きました」


「……はい」


「では、あなたが行ってください」


ノアの顔が引きつった。


「え、でも」


「でも、ではありません」


「……兄さん」


助けを求めるな。


僕は冷たく言った。


「行け」


「……はい」


ノアは震える声で答えた。


そして。


エレノアさんが一歩近づいた。


「それと」


「はい……」


「二度と佐伯さんを倒れさせないでください」


静かな声だった。

なのに、圧がある。


ノアは本能で理解したらしい。


彼は床に額を擦りつけた。


「はい!!!!!!!!」


僕は思った。


この家の序列が、少し変わった。


叔父上でもない。

僕でもない。


ーーーエレノアさんだ。


ノアは顔を上げ、ふと僕を見た。


そして、にやりと笑った。


「兄さん」


「なんだ」


「いいですね」


「殺すぞ」


「生活、してますね」


「殺すぞ」


エレノアさんが淡々と付け加えた。


「土下座は終わりですか」


「終わりです!!」


「では帰ってください」


「はい!!」


ノアは立ち上がり、玄関で振り返った。


「兄さん」


「なんだ」


「兄さんが倒れたの、僕のせいです」


「知ってる」


「でも」


ノアは小さく笑った。


「兄さんが支えられてるのを見て、少し安心しました」


僕は言葉を失った。


エレノアさんは表情を変えない。


ノアは去っていった。

嵐のように。


そして。


玄関に静寂が戻った。


僕は小さく息を吐いた。


「……すみません」


「何がですか」


「弟が」


「弟ですか」


エレノアさんは淡々と靴を揃えた。


「面倒ですね」


「……はい」


僕は思った。

面倒なのは弟だけじゃない。

僕の人生も。


でも。


その面倒に、彼女が入ってきてしまった。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

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