表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/61

その8 「ノア、現場に来い」

普段怒らない人が起こると怖いよね

爆発は、ある朝突然来た。

現場からの電話。


トラブル。


追加の会議。

書類。

移動。


そして遠隔の画面の向こうで、ノアが笑っている。


『兄さん、大丈夫?』


「大丈夫に見えるか?」


『うん、いつも通りだよ』


その言葉で、何かが切れた。

僕は静かに言った。


「ノア」


『なに?』


「お前、この六年間で何回現場に行った」


『え?』


「数えてやろうか」


ノアが瞬きをする。


僕は続けた。


「年に二回程度だぞ」


『そんなこと――』


「ある」


即答した。

胃が痛い。

頭も痛い。


でも今はそれどころじゃない。


「遠隔で済む仕事はいい」


「会議も書類も、画面越しで済む」


「だが現場は現場にしかない」


ノアは口を開けたまま黙った。


僕は淡々と積み上げる。


「お前の担当は現場だ」


「僕の担当も現場だ」


「結果、僕の担当が二倍になった」


 一拍。


「二倍じゃない」


「三倍だ」


『兄さん……』


「兄さんじゃない」


声が低くなった。


「僕は今年で四十二だ」


ノアが目を見開く。


「昔と違う」


「無理がきかない」


「徹夜したら回復に三日かかる」


「胃薬は回復アイテムじゃない」


『……』


「僕は死ぬ」


ノアが慌てて言う。


『でもルイスが……』


「ルイスは可愛い」


即答した。


「可愛いが」


僕は続けた。


「それとこれとは別だ」


「育休を言い訳にするな」


『言い訳じゃ――』


「言い訳だ」


僕は机を叩いた。


音がした。


自分でも驚いた。


ノアが固まる。


僕は息を吸った。


「いいか」


「次の現場、お前が来い」


『兄さん……』


「来い」


『でも……』


「来い」


ノアは小さく言った。


『……兄さん、怒ってる?』


「怒ってる」


『初めて見た』


「見ろ」


「これが限界だ」


沈黙。


ノアがゆっくり頷いた。


『分かった。行く』


「絶対だな」


『絶対』


僕は目を閉じた。


その瞬間。

背後から静かな声。


「佐伯さん」


エレノアさんだった。


いつの間に。

僕は固まった。


「……聞いてましたか」


「ええ」


淡々。


そして彼女は、少しだけ口元を緩めた。


「いいと思います」


「……何がですか」


「ちゃんと怒れたこと」


僕は言葉を失った。


恐怖と安堵が混じる。


生活を整えられる恐怖。


そして。


壊れないための怒り。


エレノアは淡々と付け足した。


「倒れたら困りますから」


「誰が」


「私が」


 一拍。


「仕事が増えます」


僕は小さく笑いそうになった。


危ない。


世界が色づくのは、まだ早い。




ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


感想・フォロー等とても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ